たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

「ヒナね、詩音に会う前いつもすごい怖いの。今日もまだヒナのこと覚えててくれてるかなって、毎回死ぬほどドキドキする。いつか詩音がヒナのこと忘れたら……ヒナ、泣いちゃうかもしれないな」

 一度ぎゅうっと強く目を閉じた雛子は、微かに赤くなった目で蓮を見て笑う。

「その時は蓮、泣くのつきあってね。きっと、詩音の前では泣けないからさ」

 黙って、それでもしっかりとうなずいた蓮を見て、雛子は嬉しそうに笑った。

「実は、詩音が蓮のこと話しだした時さぁ、正直ちょっとショックだったんだよね。ヒナや悠太くんより大事な人ができたのかなって思って」

「そんな俺、まだ会ったばっかだし、ヒナちゃんの方が長い付き合いだろ」

「うん、ヒナは詩音の親友だからね」

 得意げに胸を張ってみせつつ、雛子は小さくため息をついた。

「でもね、ヒナと話してる時には見せない笑顔を詩音から引き出したのは蓮だからさ、感謝してるの。だから蓮、どうか詩音のそばにいてね。無茶なお願いをしてるのは分かってるんだけど、ヒナはやっぱり詩音に笑ってて欲しいから」

 まっすぐに見つめる雛子の視線は、蓮の覚悟を問うているようにも見える。それを受け止め、蓮は分かったと噛み締めるように返事をした。
 
「ありがと、蓮」

 小さくつぶやいた雛子は、一度ため息をつくと蓮を見上げて笑った。その表情は、どこか諦めたような儚い笑み。

「あたしね、蓮がいてくれてちょっとだけ嬉しいんだ。今まで詩音のこと、誰にも話せなかったから」

 一緒に背負ってくれる仲間……みたいな、と遠い目をして雛子はつぶやく。

「どっちが先に忘れられるのか分かんないけどさ、一緒に詩音のそばに、いようね」

 少し震えた雛子の言葉に、蓮はうなずいた。