三日後の夕方に会う約束をして、蓮は病室を出た。
また会えるのを楽しみにしていると笑った詩音が可愛くて、女の子と手を触れ合ったのなんていつぶりだろうと思うとくすぐったい気持ちになる。細く柔らかかった指の感触を思い返しながらにやけた顔を押さえつつエレベーターホールへと歩き出そうとしたところで、背後から声をかけられて蓮は足を止めた。
「きみ、ちょっといいかな」
振り返ると、白衣を着た若い男性が息を切らしてこちらに向かってくるのが見えた。
「詩音の、お友達かな」
シルバーフレームの眼鏡をかけたその男は、微かに眉を顰めながらそう言う。胸元の名札にちらりと目をやった蓮は、『相馬悠太(そうま ゆうた)』と書かれた名前と彼が医師であることを確認する。詩音の主治医だろうか。
「えっと、友達っていうか、今日会ったばかりなんですけど」
「あぁ、そうなのか。見たことのない顔だと思ったんだ」
相馬はにっこりとした笑みを浮かべたが、その目の奥はひとつも笑っていない。どこか怒りを滲ませたその表情に、蓮は戸惑って瞬きを繰り返す。
「申し訳ないんだけど、詩音はもうきみとは会わない」
「え?」
「ああ見えて、あまり体調が良くないんだ。無理をさせると良くないからね」
冷たく言い放たれて、蓮は慌てて首を振る。たった今、また会うと約束をしたばかりなのに。
「だって俺、詩音……さんと、約束して」
「あの子にはこちらから言って聞かせておくから。約束の日に来てもらっても、申し訳ないが詩音には会わせられない」
そういうことだから、と一方的に話を切り上げられそうになって、蓮は思わず拳を握りしめた。
「それって……、詩音さんが俺のことを忘れているかもしれないから、ですか」
蓮の言葉に、相馬は目を見開いた。唇が、どうしてそれをと震えながら小さく動くのを見て、蓮は相馬との距離を詰める。
また会えるのを楽しみにしていると笑った詩音が可愛くて、女の子と手を触れ合ったのなんていつぶりだろうと思うとくすぐったい気持ちになる。細く柔らかかった指の感触を思い返しながらにやけた顔を押さえつつエレベーターホールへと歩き出そうとしたところで、背後から声をかけられて蓮は足を止めた。
「きみ、ちょっといいかな」
振り返ると、白衣を着た若い男性が息を切らしてこちらに向かってくるのが見えた。
「詩音の、お友達かな」
シルバーフレームの眼鏡をかけたその男は、微かに眉を顰めながらそう言う。胸元の名札にちらりと目をやった蓮は、『相馬悠太(そうま ゆうた)』と書かれた名前と彼が医師であることを確認する。詩音の主治医だろうか。
「えっと、友達っていうか、今日会ったばかりなんですけど」
「あぁ、そうなのか。見たことのない顔だと思ったんだ」
相馬はにっこりとした笑みを浮かべたが、その目の奥はひとつも笑っていない。どこか怒りを滲ませたその表情に、蓮は戸惑って瞬きを繰り返す。
「申し訳ないんだけど、詩音はもうきみとは会わない」
「え?」
「ああ見えて、あまり体調が良くないんだ。無理をさせると良くないからね」
冷たく言い放たれて、蓮は慌てて首を振る。たった今、また会うと約束をしたばかりなのに。
「だって俺、詩音……さんと、約束して」
「あの子にはこちらから言って聞かせておくから。約束の日に来てもらっても、申し訳ないが詩音には会わせられない」
そういうことだから、と一方的に話を切り上げられそうになって、蓮は思わず拳を握りしめた。
「それって……、詩音さんが俺のことを忘れているかもしれないから、ですか」
蓮の言葉に、相馬は目を見開いた。唇が、どうしてそれをと震えながら小さく動くのを見て、蓮は相馬との距離を詰める。

