「普通だな」
 「え。美味しくなかったですか?」
 「いや、美味しかった。でもお前が食べてるの見てたらこんなもんかって」
 「はあ」


 折田先輩の言っていることはよく分からなかったが、とりあえず美味しく食べてくれたらしい。

 先輩の分を用意していなかったことに怒る様子も見られず安堵する。


 「そろそろ行くぞ」
 「はい!」


 食べ終えた私に先輩が声をかけ、目的地へと歩を進めた。


 ***


 「この辺が一ノ瀬先輩が言っていたところですよね?何もなくないですか?」
 「……ああ」


 今私たちがいるのは、ただの住宅地。

 そこに見える電柱より先が虎月の領域、こっちが龍ヶ崎の領域であるとさっき教えてもらった。

 その境界を越えて相手の領域で何かしら問題を起こしてしまうと厄介なのだとか。

 ……境界線ならもっと派手に作ってほしい。
 間違えて私が入ったらどうするんだ。

 そう内心思いながら、辺りを見渡すが特に何もない。

 一ノ瀬先輩が言っていた虎月の人はいない、というか、逆にまだ日も沈んでいないというのに、人の気配が一切ないことの方が不審に思える程だ。

 その時だった。

 何も無いみたいだし帰りましょうと、私が告げようとした時。