獅子の皮を被った子猫の逃走劇

 「俺は反対だ。第一、視察なら俺一人で済む話だろ。なんでお荷物まで連れて行くんだよ」
 「言いたいことは分かるけど、総長として獅音くんにも頑張ってもらわないといけないからね」
 「だからってっ!」
 「玲央がいるなら万が一のことが起きても対処できるでしょう?」


 お、お荷物……。
 それってもしかしなくても私のことですよね?

 確かに平凡な私にはケンカなんて以ての外だけど、なんでそこまで言われないといけないのだろうか。


 「あー、ウチも一緒に行こっか?」


 私がムカッとしたのが顔に出ていたのか、希良ちゃんが話に入ってくれた。

 けれど、既に一ノ瀬先輩と折田先輩の間で何やら話はついていたようで、希良ちゃんの提案は却下されてしまった。


 「じゃあ、明日の放課後によろしくね」
 「……はい」
 「……」


 一ノ瀬先輩の言葉に不承不承うなずいた。

 イライラしているのか、いつもよりも荒っぽく部屋を出ていった折田先輩。

 仮にも一ヶ月近くで過ごしていたのに、ああまで嫌われていたのかというショックと、明日の不安を込めて、私は大きなため息をひとつ吐いた。