クラス全員が目を大きく見開き、静まりかえっていた。いや、全員と言うのは正確ではない。宮島晴菜を除いて全員というのが正しかった。誰もが自分の目に見えているものが、信じられないという顔をしている。
先生の横に立っているのは、男子生徒だ。身長は170を超えており、先生と並んでもそう大差はなかった。さらにスラッとした身体。細身でありながら、しっかりと筋肉がついていそうな細マッチョ体型。少しだけつり上がった瞳は、大きく見えた。鼻筋はスラッとしている。何だかんだと、一言で言えば、気の強そうなカッコいい男子だ。だが、生徒たちが驚いているのは、男子生徒の容姿だけでなく、黒板に書かれた名前だった。
神田瑛翔
その名前と容姿に、晴菜を除いた全員が固まっていた。
「マジカよ。神田って」
「本当に、えっ、キッスの?」
晴菜の前にいる男子が話している。徐々にクラスが騒がしくなってきた。
「ねえ、どうしてみんな驚いているの?」
晴菜が、隣の女子に聞いた。
「えっ、神田瑛翔よ。あのキッスのリーダーだよ」
(キッス? リーダー?? 誰???)
興奮が抑えきれない声が、教室に響いた。それが合図とばかりに女子が一斉に声を上げていった。教室は乾いた高音と歓喜する声で満たされた。さすがに先生が騒がぬようにと、注意をすると、徐々に静けさを取り戻していった。騒ぎが治まると、先生が瑛翔に自己紹介を促した。
瑛翔が教卓に手をかけ、名前を告げた。その声は、澱みがなく澄んでおり、雑音を突き抜けて教室の後ろまで耳に届いた。女子だけでなく、男子までもが瑛翔の声に耳を奪われていた。
(教室の雑音を突き抜けて、しっかり聞こえる)
晴菜は、瑛翔の声に感心していた。
自己紹介が終わり、先生が一言付け加えた。
「この学園の1人の生徒として、神田さんに接してください。それから、外部への情報発信はプライバシーの侵害につながり、発信者は責任が伴うということを忘れないように」
先生の言葉に生徒たちは、神田瑛翔が本人であることの確証を得た。ただ、晴菜だけは、表情を崩すことなく瑛翔を見ていた。
「それでは神田さん、宮島さんの隣の席へ。宮島さん、案内役をお願いします」
晴菜が手を上げて返事をすると、先生が頷いて瑛翔を席へ着くように促した。瑛翔はまっすぐ晴菜の方に歩いていく。一歩一歩進むたびに、注目を集めていた。歩いているだけなのに、女子の目は釘づけになっていた。
瑛翔が晴菜の前に来ると、ジッと晴菜を見つめた。晴菜が軽く首を傾げた。
「久しぶり」
(いまなんと言いましたか?)
「あっ、どこかで?」
教室が凍りつく空気のなか、晴菜は頭の中で、過去から現在までの記憶を必死で検索していた。
『ピーン! 該当の人物は見つかりません』
検索結果のアナウンスが、晴菜の頭の中に響く。
(当然よ。今日初めて会ったのに、知ってるわけないよ)
「たぶん人違いです」
「あっ」と声を出そうとする瑛翔にニッコリと笑って、返事をしたことで、凍りついていた空気が一気に緩んだ。隠し立てする素振りもなく、堂々と否定した晴菜の態度にまわりの生徒は納得したのだ。瑛翔の何ともいえぬ悲しそうな表情が、晴菜の心に残った。
先生の横に立っているのは、男子生徒だ。身長は170を超えており、先生と並んでもそう大差はなかった。さらにスラッとした身体。細身でありながら、しっかりと筋肉がついていそうな細マッチョ体型。少しだけつり上がった瞳は、大きく見えた。鼻筋はスラッとしている。何だかんだと、一言で言えば、気の強そうなカッコいい男子だ。だが、生徒たちが驚いているのは、男子生徒の容姿だけでなく、黒板に書かれた名前だった。
神田瑛翔
その名前と容姿に、晴菜を除いた全員が固まっていた。
「マジカよ。神田って」
「本当に、えっ、キッスの?」
晴菜の前にいる男子が話している。徐々にクラスが騒がしくなってきた。
「ねえ、どうしてみんな驚いているの?」
晴菜が、隣の女子に聞いた。
「えっ、神田瑛翔よ。あのキッスのリーダーだよ」
(キッス? リーダー?? 誰???)
興奮が抑えきれない声が、教室に響いた。それが合図とばかりに女子が一斉に声を上げていった。教室は乾いた高音と歓喜する声で満たされた。さすがに先生が騒がぬようにと、注意をすると、徐々に静けさを取り戻していった。騒ぎが治まると、先生が瑛翔に自己紹介を促した。
瑛翔が教卓に手をかけ、名前を告げた。その声は、澱みがなく澄んでおり、雑音を突き抜けて教室の後ろまで耳に届いた。女子だけでなく、男子までもが瑛翔の声に耳を奪われていた。
(教室の雑音を突き抜けて、しっかり聞こえる)
晴菜は、瑛翔の声に感心していた。
自己紹介が終わり、先生が一言付け加えた。
「この学園の1人の生徒として、神田さんに接してください。それから、外部への情報発信はプライバシーの侵害につながり、発信者は責任が伴うということを忘れないように」
先生の言葉に生徒たちは、神田瑛翔が本人であることの確証を得た。ただ、晴菜だけは、表情を崩すことなく瑛翔を見ていた。
「それでは神田さん、宮島さんの隣の席へ。宮島さん、案内役をお願いします」
晴菜が手を上げて返事をすると、先生が頷いて瑛翔を席へ着くように促した。瑛翔はまっすぐ晴菜の方に歩いていく。一歩一歩進むたびに、注目を集めていた。歩いているだけなのに、女子の目は釘づけになっていた。
瑛翔が晴菜の前に来ると、ジッと晴菜を見つめた。晴菜が軽く首を傾げた。
「久しぶり」
(いまなんと言いましたか?)
「あっ、どこかで?」
教室が凍りつく空気のなか、晴菜は頭の中で、過去から現在までの記憶を必死で検索していた。
『ピーン! 該当の人物は見つかりません』
検索結果のアナウンスが、晴菜の頭の中に響く。
(当然よ。今日初めて会ったのに、知ってるわけないよ)
「たぶん人違いです」
「あっ」と声を出そうとする瑛翔にニッコリと笑って、返事をしたことで、凍りついていた空気が一気に緩んだ。隠し立てする素振りもなく、堂々と否定した晴菜の態度にまわりの生徒は納得したのだ。瑛翔の何ともいえぬ悲しそうな表情が、晴菜の心に残った。
