紗枝は、父の勧めで出場したお菓子のコンクールで三位入賞を果たした。今日は、その時に作ったパレブルトンと、檸檬パイを焼いてもってきている。紗枝はこのお菓子で、賞金とスポンサーを獲得した。パティスリー店を出す、という夢が近づいてきている。お菓子教室も口コミで生徒さんが増え、コールセンターのシフトを減らしたくらいだ。
「自信持って。俺の心を奪ったお菓子があるから大丈夫。もちろん、紗枝さんの外見と中身にも心奪われたけどね」
紗枝は、誠司の横顔をじっと見た。視線を感じたのか、誠司が何、ときいた。
「ううん…そうね。誠司さんがいてくれるから、心強い」
「そうだろう。俺も自慢の奥さんを家族に紹介できて嬉しいよ」
誠司の言葉に、紗枝の頬がゆるむ。誠司さんはいつもこんな風に私の心をほぐしてくれる…。
先日も父の工房に顔を出した。新製品について意見を求められた。「お前に何ができる」と言っていた父とは別人のようだ。コンクールの入賞も認めてくれて、「さすが俺の娘だ」と笑った。
誠司と出会ったことで、紗枝の環境はすっかり変わった。お菓子教室でセレブマダムたちと交流を持ち、頑固だった父が軟化した。
もう家出して、心細かったかつての自分はいない。
「そうだ。誠司さん、今度私のおばあちゃんにも会ってくれませんか?借りたお金を返しに行きたいんです」
あの家出した日、祖母がくれたお金がなかったら東京暮らしの基盤は作れなかった。コンクールの賞金が手に入ったので、返しに行こうと思っていたのだ。
「ああ。紗枝さんのおばあちゃんか。会ってみたいな」
祖母はあの日、自分を見捨てるな、と言ってくれた。言われた時はどういうことかわからなかった。でも、今ならわかる。務と別れて、夢と恋がなくなったけれど、お菓子をつくることは手放さなかった。お菓子があるから、誠司ともつながれた。
失恋したあの日、泣きながら作ったクッキーが運命を切り拓いてくれたのだ。
「私、ちゃんと誠司さんと幸せになる。おばあちゃんにそう言いたいです」
かみしめるように、紗枝が言うと、誠司が言った。
「俺も、紗枝さんと幸せになるってうちの家族に言うよ。見合いをつぶしてきた俺が急に結婚してるから、皆驚くだろうなあ」
紗枝の左手の薬指にはリングが光っている。岡山から帰ってきてすぐに誠司からもらった結婚指輪だ。
「…誠司さん、好きです」
「うん?」
「指輪見てたら、言いたくなったんです」
「ふうん。俺も紗枝さんを愛してるよ」
ふわりと耳心地のいい言葉が届く。紗枝は頬を染めながら、甘い言葉をかみしめる。紗枝の作るお菓子よりも何倍も甘かった。
<了>
「自信持って。俺の心を奪ったお菓子があるから大丈夫。もちろん、紗枝さんの外見と中身にも心奪われたけどね」
紗枝は、誠司の横顔をじっと見た。視線を感じたのか、誠司が何、ときいた。
「ううん…そうね。誠司さんがいてくれるから、心強い」
「そうだろう。俺も自慢の奥さんを家族に紹介できて嬉しいよ」
誠司の言葉に、紗枝の頬がゆるむ。誠司さんはいつもこんな風に私の心をほぐしてくれる…。
先日も父の工房に顔を出した。新製品について意見を求められた。「お前に何ができる」と言っていた父とは別人のようだ。コンクールの入賞も認めてくれて、「さすが俺の娘だ」と笑った。
誠司と出会ったことで、紗枝の環境はすっかり変わった。お菓子教室でセレブマダムたちと交流を持ち、頑固だった父が軟化した。
もう家出して、心細かったかつての自分はいない。
「そうだ。誠司さん、今度私のおばあちゃんにも会ってくれませんか?借りたお金を返しに行きたいんです」
あの家出した日、祖母がくれたお金がなかったら東京暮らしの基盤は作れなかった。コンクールの賞金が手に入ったので、返しに行こうと思っていたのだ。
「ああ。紗枝さんのおばあちゃんか。会ってみたいな」
祖母はあの日、自分を見捨てるな、と言ってくれた。言われた時はどういうことかわからなかった。でも、今ならわかる。務と別れて、夢と恋がなくなったけれど、お菓子をつくることは手放さなかった。お菓子があるから、誠司ともつながれた。
失恋したあの日、泣きながら作ったクッキーが運命を切り拓いてくれたのだ。
「私、ちゃんと誠司さんと幸せになる。おばあちゃんにそう言いたいです」
かみしめるように、紗枝が言うと、誠司が言った。
「俺も、紗枝さんと幸せになるってうちの家族に言うよ。見合いをつぶしてきた俺が急に結婚してるから、皆驚くだろうなあ」
紗枝の左手の薬指にはリングが光っている。岡山から帰ってきてすぐに誠司からもらった結婚指輪だ。
「…誠司さん、好きです」
「うん?」
「指輪見てたら、言いたくなったんです」
「ふうん。俺も紗枝さんを愛してるよ」
ふわりと耳心地のいい言葉が届く。紗枝は頬を染めながら、甘い言葉をかみしめる。紗枝の作るお菓子よりも何倍も甘かった。
<了>



