いつもと変わらない帰り道

チカチカと今にも切れそうな街灯の下

一人の老人がうずくまって居た

私は気付かぬ振りをし

老人の横を通り過ぎようとした瞬間

老人は酷くかすれた声でこう言った

「たまには違う道を・・・歩いたらどうだ」

不意を突かれ振り向いた私は

何事も無かったかの様に淀むいつもの帰り道に

どこか哀愁を感じた

次の日

私は一本違う横道を通り帰る事にした

普段の帰り道とは違い少し見慣れぬせいか

落ちている小石一つさえ新鮮に感じた

その次の日もそのまた次の日も

私は違う帰り道を選び帰った

一週間程繰り返しただろうか

私の知りえる帰り道を行き尽くし

明日からどうしようかと歩いていると

チカチカと今にも切れそうな街灯の下

何やら一冊の本が落ちていた

私は何も考えずにその本を拾い上げた

「・・・地図」

なぜか私は胸を高鳴らせ

その落し物を何事も無かったかのように服の中に隠した

正直笑みが止まらなかった

明日からまた新しい帰り道に出会える

この地図さえあればどこを通っても迷う事は無い

地図を拾った次の日から

私の行動範囲は拡大の一途を辿り

前の私では考えられない位世界が広がった

もう帰る為に歩いているのか

歩く為に帰るのか

分からなくなっていた

そして自分でも気付かぬうちに変な癖がついてしまっていた

家に着くまでの帰り道

何か必ず一つ

その道を通った記念に落ちている物を拾って帰る事

苔生した小石から錆びて変形した王冠

気味の悪い人形から卑猥な本まで・・・

家に溜め込んだそれらを見るだけで

それらを拾った帰り道の思い出が頭の中いっぱいに広がり

とても幸せな気持ちに満たされる私