「でも、全然懐いてくれなくてさ」
初めて会ったときはすぐに逃げたのに、今は逃げるどころか懐いている。私じゃなくて、蒼空に懐いているだけかもしれないけど。
「えー、でも、今は懐いてくれてるよね」
「だね」と短く返す。正直、この黒猫にまた会えたことが嬉しかった。
そんなことを思っていると、黒猫が私と蒼空の手から離れ、近くを駆け回った。
「じゃー、そろそろ帰ろっか」
蒼空が立ち上がり、私もつられる。
「だね、また明日」
蒼空が帰っていくのをしばらく見届けて、私も帰ろうとする。入道雲が夕日に照らされて、オレンジ色のフィルターがかかっているようだった。
空を眺めながら、のんびりと歩いていく。
「ミャー」
私はすかさず、声が聞こえた方を向いた。黒猫が私の隣で止まって、私のことを見つめている。私が前に進むと、黒猫も追ってきた。
どうして着いてくるのだろうか。不思議だな、と思いつつ、私は歩き進んだ。
家に着くまで黒猫は隣にいて、家の目の前にくるとそこで止まった。
「ミャー」
私は家には入らずに、黒猫に近づいた。
黒い毛並みに手を伸ばす。黒猫は逃げずに、私の方へ近寄ってくれた。私は頭をふさふさと撫でる。
やっぱり、動物って可愛いなぁ。
少ししてから、私は撫でるのをやめた。黒猫は特に気にしていないようで、私は家に入ろうとした。
黒猫が近くをうろついていたから、私は家のドアを開けた。
どうして黒猫とまた会えたのか、黒猫がなにかを伝えたかったのかは分からないけど、癒されたな、とだけ思った。



