ベランダの鍵を閉めて、スマホの画面を閉じる。そういえば、最近はスマホを見ることが少なくなった気がする。蒼空と話していたから、スマホを触る機会も減った。
あぁ、そっか。私は、大事なものを失っていたんだ。スマホより、もっともっと大事なもの。友達と話す楽しさを、景色を眺める涼しさを。
蒼空と打ち明けてから、私の人生は百八十度ひっくり返ったと思う。信じられないぐらい、ありえないぐらい、世界を見る目が変わった。心機一転した。
憂鬱で退屈で仕方なかったはずの今日が、晴れやかで清らかな今日になった。
暑い夏は嫌いなままだけど、つまらない学校は嫌なままだけど、それ以上に好きになれるものが見つかったから。
空が好き。あの写真を目にしたとき、どうしようもないぐらいに惹かれてしまったから。好きなものもなにもなかった私が、空を好きになれたんだ。
空を見ると、心が落ち着く感じがする。
私は、まだまだもの知らずだった。そもそも、好きになれるようなものを知らなかっただけだったと思う。
私は階段を降りて、学校へ行く準備をする。顔を洗い、制服に着替え、背中まである髪の毛を結んだ。
「おはよ、お母さん」
「おはよう、ご飯できてるわよ」
椅子に座り、朝食を食べる。カリッ、とパンをかじる音が響いた。私はいつも通り、テレビを付ける。
「今日は夏空が広がり、もくもくとした入道雲が見られるでしょう__」
天気予報のアナウンサーの声に、各地方の天気を表す画面。
昔の私だったら当然聞き流していただろうけど、今だとほのかに興味が湧く。
入道雲って、あの立体的でもくもくしてるやつだよね。まさに夏って感じの雲。


