いつも通りとぼとぼと帰り、家の目の前まできた。家に入るだけなのに、謎の緊張感がある。
ガチャ、とドアを開け、「ただいま」と言う。
ただいまと言うのも、久しぶりな気がする。一つ一つの大切なことを、私は忘れていたんだと思う。
リビングに行くと、お母さんはソファーに座ってテレビを見ていた。
「おかえり」
お母さんから貰った挨拶が、頭の中で反響する。
「ただいま」
私はもう一度、そう口にした。
今日は、なんだか現実味がない日だ。微かに、憂鬱な気持ちが晴れていくような感じ。悩みが一つ消えていくように、心の靄が薄れていくように。
「お菓子用意してあるから、美雲も一緒に食べよう」
丸いお皿には、個包装のチョコと、ポテトチップスが広げられていた。
「うん」
私は手を洗って、部屋にカバンを置きに行ってから、お母さんの隣に座った。
私もお母さんもぎこちなくて、とりあえず私はチョコを口に放り込んだ。
甘すぎず苦すぎず、ちょうどいい甘さで美味しかった。


