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数日間経ってから、私はやっとなにかをする気になれた。数日間だけど、私にとってはそれよりもずっと長い時間動いていないように感じた。
無性に海へ行きたくなったから、ダル着のまま夜の海へ向かった。
街灯はついているものの、夜だから辺りは薄暗い。
まるで私の心を反射したような暗闇。今日は新月だから月も見えない。
海に着いた。ざー、という波の声がどよめく。波が波を追いかけるように、永遠に海が動いているような気がした。
隣にいたはずの蒼空はもういない。
「蒼空」と呼んで「なに?」と優しく微笑んでくれたことも、「美雲」と空のように包み込んでくれる声で私を呼んでくれたことも、今は全てない。
温かい手の温もりも感じられない。心が空っぽになってしまったみたい。
瞬きをすると、左の頬が涙に濡れるのが分かった。
「ミャー」
…え?まさか、と目を見開き、鳴き声がした方に目を向けた。
視線の先には、見慣れた黒猫。美空がいた。
「ミャー」
まるで迎えにきたよ、と言われているようだった。黒い毛並みに甘い瞳。全てが愛おしかった。
「美空...」
私は思わず美空に抱きついた。
「また、きてくれたんだね」
私の体にすっぽりと入ってくれて、温もりを感じた。
蒼空みたいだと思った。やっぱり、美空と蒼空は似ている。



