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あの日から、蒼空はずっと寝たきりだった。
もう、話すこともできなくなっちゃうのかな、と後悔する。どうせなら、病院で話せるときに思う存分話しておくべきだった。
せめて、最期の日だけはちゃんと話したい。
嫌いと言われた苦い思い出。病気と告げられた衝撃。空の美しさに気づいた日。蒼空と作り上げた幸せ。美空と名付けた黒猫。
全ての記憶が蘇ってくる。この感情をどうやって表せばいいのか分からない。ただ無性に涙が出てきそうで、蒼空の温かい手を握りたくて。
蒼い空を見上げたくて。考えるだけで泣きそうになる。必死に涙が出るのを我慢した。
余命まで、あとゼロ日。今日が、蒼空とお別れする日だった。
足が重い。でも早く行かないといけない。ぎゅっと唇を噛んだ。
こんなんじゃダメだ。行かないと。一刻でも早く、蒼空のところへ向かわないと。
私は走り出した。一秒でも、一分でも長く、蒼空の傍にいたいから。私は今までにないぐらい速いスピードで走った。
足が痛い。疲れて呼吸が乱れる。喉が渇いた。涙を堪えるのに必死で苦しくなる。
それでも私は足を止めなかった。苦しくても、辛くても、蒼空の命には敵わないから。



