蒼空は病院にいる。疲れやすくなったり、動くのがしんどくなったり、眠る時間が増えたりするらしい。もうやりたいことも、思う存分できない。
人は必ず、失ってから失う前の感情に気づくんだと思う。失う前から幸せなことに感謝できていても、失ってからはそれ以上に幸せだったことを実感するから。
蒼空が入院してから、私は毎日必ずお見舞いに行っている。一秒でも、一分でも長く、蒼空の近くにいたいから。
私は今日から、蒼空に花を持っていくことにした。キラッ、と輝くブレスレットをつけて、「行ってきます」と言う。
病院に行く前に、お花屋さんに向かった。
もう夏は過ぎて、だいぶ涼しくなっている。
たくさんの花が飾られた入口に入ると、花の香りに鼻がツーンとして、咳むせた。
多種類の花の中から、シオンの花を探す。
「なにか探してるお花ありますか?」
人柄がよさそうな店員さんから尋ねられた。
「シオンの花です」
私はそう答える。丁度見当たらなくて困っていたから助かった。
「シオンの花ですね...!こちらにありますよ」
あっさり見つかったから、「ありがとうございます」とお礼を言った。
淡い紫色のシオンを手に取る。会計をして、急いで病院へ向かった。



