「アイラってね、赤みを帯びた茶色のストレートロングヘアに、この世界でも珍しいピンクの愛らしい瞳をしているの。実家は貧乏だけど、心根の真っ直ぐな素敵な女の子でね、侯爵家の跡取りとして厳格に育てられてきたブレディン様の心を優しく解きほぐしたすごい人なのよ! それで、ブレディン様は……」


 わたしがブレアイへの愛を語ると、アンセルは黙ってそれを聞いてくれる。前世では話し相手なんてほとんどいなかったから、相槌を打ってくれるだけでもとても嬉しいことだ。ひととおり二人のなれそめを話し終えると、アンセルは小さく息をついた。


「しかし、だとするとお嬢様にとっては困ったことになりましたね」

「そうなの! 二人の恋路を邪魔するのがわたしだなんて、悲しすぎるでしょう? ブレディン様とアイラは絶対にハッピーエンドになるって信じてたのにさ。……いや、今も信じてるんだけど! わたし、物語の結末を知らないから、これからどう立ち回ったらいいのかわからないんだもん」


 ――本当に、これが一番の問題で。
 二人がこれからどんな行動をとるのか、どんな結末を迎えるのかをわたしは知らない。知っていたら、寸分違わず再現をしてみせるのに……! と思うけど、摩耶として生き返ることはできないんだもの。物語の結末を確認するすべはない。どうしたらいいかを想像しながら動くしかないのだ。