胸に刻まれた剣聖の紋章。
その力の一端を使ってみて、世界の安寧を願った国々と教会の意図を感じてしまった。
これが正しい答えなのかはわからないが、多分そんな理由だったのだろう。
答え合わせはできないけれど。
「まだ聖魔力が……溢れている」
胸に手を当てる。
これだけの力を使ったのに、枯渇する気配もない。
いったいどうなっているのだろう?
「……まあ、いっか!」
そんなことより、帰ろう!
もっと時間がかかると思ったけれど、こんなに早く終わると思わなかった。
剣聖の真の力はこんなものではないが、それを知っているのは……今は私だけでいいだろう。
「円環よ、我が元へ」
再び円環を生成して、背中に取りつける。
飛び上がって雲より上に移動し、北へ向かって飛行を開始した。
すっかり夜も更け、雪雲が見え始める頃には時間的には夜明け前か。
うん、やってみよう。
「円環よ、対魔聖円環よ。あの分厚い雲を引き裂き、新たなる朝の光を彼の町へ!」
町が見えてきたところで、一度空中に止まり円環を前方へ向ける。
これもまた円環の力の一端。
円環の穴に聖魔力を集め、光の玉を作り出す。
その光の玉を、分厚い雪雲に向けて放つ。
凄まじい極太の光線が数百メートル先まで一瞬で駆け抜け、曇天の空を引き裂いた。
そのまま横に逸らすと、光の線が雲を消し去っていく。
分厚い雪雲が消えたあとに現れるのは、ゆっくり山の隙間から昇ってくる日の出に照らされる曙色。
よし、これだけ広範囲の雲を消し去っておけば、また雲ができるまで数時間はかかるはず。
その間に永久凍国土の入り口の封印核まで飛んで……と。
『おかえりなさい』
(初代聖女シュリアス様)
主柱に触れると、まさかの声。
彼女の方から再び話しかけてくれるなんて思わなかった。
なにか用なのだろうか?
『他の五代英雄たちに伝えてくれたのですね。おかげで魔王の封印の封印核へ、聖魔力の供給が確認されました』
(本当ですか?)
『ええ、三箇所だけですが』
おそらくクラッツォ王国以外の三ヵ国……弓聖、槍聖、賢者が即座に動いて封印核の場所を調べ、聖魔力の供給を行ってくれたのだろう。
胸を撫で下ろす。
よかった、それなら再び封印は強化される。
(今日の私は聖魔力がなぜかとても溢れているので、昨日より多めに供給したいのだが大丈夫だろうか?)
『あら、そうなのですか? もちろんです! ありがたいです!』
そして、今のこの溢れんばかりの聖魔力なら、ガンガン供給できる。
主柱に触れて溢れるまま聖魔力を注ぎ込む。
本当に、なぜだかまったく聖魔力が減る気配がない。
(この封印核が復活すれば、この地域を覆う大寒波もなくなるだろうか?)
『ええ。昨日一昨日あなたがこの付近に大寒波をもたらしていた厄災魔物たちを倒してくれましたから、時期にこの大寒波は治るでしょう』
(え!? あの厄災魔物たちが原因だったのですか!?)
『え? 知らずに倒したのですか? 厄災魔物はその名の通り、厄災を引き起こします。特に十体の厄災魔物が揃うと、その地方に大きな自然災害を引き起こすのですよ。しかも、聖魔力の供給が途絶えて封印も弱まり、厄災魔物がたくさん揃い易い状況でした』
(これほどの災害を引き起こしているとは思いませんでした。てっきり、他の魔物のように直接人々を襲うことをそう呼んでいるかと……)
初代聖女様の話によると、厄災魔物は三体揃えば大雨が続き、五体揃えば台風やハリケーンが襲い、七体揃うと森林火災が頻発し、十体揃うと地方レベルの広範囲に重度の自然災害――主に大地震や大寒波などが引き起こされる。
クラッツォ王国に十体の大型厄災魔物が現れた話を報告すると、初代聖女様には『まあ、それは早々に倒して正解でしたよ』と褒められた。
いや、早々……か?
私がクラッツォ王国から出て一週間くらい経っていたのだが……。
『一週間なら厄災魔物の天災が発動するギリギリです。おそらく十日以上討伐ができないままでしたら、その国は大地震や大型ハリケーンからの森林火災の天災大盤振る舞いを食らうところでしたよ』
(天災の大盤振る舞い!?)
『厄災魔物の恐ろしさはそこなのです。数が揃えば揃うほど天災の範囲も強さも増していく。一体一体が通常武器や通常の魔法では倒せないほど硬く、もたもたしていると数が増えて天災被害がどんどん広がり手がつけられなくなる。天災はどんな魔法でも、簡単に相殺できるものではありませんからね。わたくしたちの時代はあっちで台風がきて町が一つ壊滅したとか、地震で火山が噴火して麓近い村が複数呑み込まれたとか、巨大な津波で漁村が消えたとか……そんな話が各地で飛び交っておりました』
(ひょ……ひょえ……)
勇者や五大英雄が各地を巡り、厄災魔物を倒して回っても別な地域で天災が発生する。
大陸は広い。
勇者一行が東の天災を鎮めても、北と西で新たな天災が起こりたくさんの人々が犠牲になる。
慌てて北へ向かい天災を鎮めても、今度は南と東で新たな天災が起こる。
それを繰り返してしまった結果、勇者一行が編み出したのは『対魔聖円環』という高速移動のできる戦闘補助聖魔法具と、聖武具という超兵器。
勇者が一人で西へ行き、天災を鎮めている間新たに起こる東と北の天災を五大英雄の誰かが鎮めに行く。
別の地域の天災を残った五大英雄の誰かが阻みに向かえば、勇者や他の五代英雄が厄災魔王の居場所を探れるようになる。
そうして勇者たちは厄災魔王の封印に漕ぎつけた。



