『お願いいたします。どうかクラッツォ王国にお戻りください。わたくしの守りの力では、巨大な厄災魔物と戦えないのです。今こうしている間にも結界が破壊されそうで……』
「ん? どういうことだ?」
詳しい話を聞くところによると、私がクラッツォ王国を去った翌日に巨大な厄災魔物が現れた。
巨大というと先程戦った三メートルほどの厄災魔物を想像したが、それは小型に部類されるらしい。
クラッツォ王国に現れた魔物は三十メートル以上。
しかも、それがなんと十体現れたという。
十体! どこからそんな数の厄災魔物が?
聞いても当然わからない。
少なくとも王都以外の町は厄災魔物によって蹂躙され続けている。
すでに数百人の犠牲が出ている――と。
「なぜ……なぜ、あなたがいながらそんな……」
『わたくしの力では、王都を守ることで精一杯なのです。王都以外の村や町まで赴き、結界を張ることはできません』
「あなたが『できない』などと言ったら、クラッツォ王国の民はどうしたらいいのです!? 私は、あなたが……同じ五大英雄の“聖女”であるあなたがいるからと思って……!」
『わたくしも救えるものなら救いたく思っております。今、こうしている間にも……。ですが、王都を襲う四体の厄災魔物を寄せつけないよう、結界を維持するだけで精一杯なのです。お願いいたします、剣聖アリアリット様、助けてくださいませ……!』
手を強く握り締める。
そんな……そんな……。
では、もう一週間以上クラッツォ王国の王都は厄災魔物に襲われ続けている?
王都以外の町や村は……?
王都が聖女の結界により閉鎖状態のため、被害状況は不明。
連絡鳥の報告では、大きな町のある領地はだいたい襲われている。
王都だけが、間違いなく無事だと。
だがそれでも籠城を想定していないかった王都は食糧不足が如実になってきている。
「教会の上層部はなにをしているのだ?」
『きょ、教会の上層部は……いつの間にか誰もいなくなっておりまして……』
『おい、どういうことだ?』
新たな男の声。
その声の主は槍聖、アンジュ・ロッソ。
さらにその声に反応して『もう一度詳しく話を聞きたい』、『先程の話は本当ということ?』と他の二人の――賢者と弓聖の声も聞こえてきた。
よかった、他の五大英雄にもちゃんと私の声は届いていたんだな。
「やはり教会はなにかおかしい。私がアイストロフィに来てから聞いた話も皆に共有する」
教会は長い時間をかけて少しずつ秘匿する情報を増やしていった疑惑があること。
封印核への聖魔力提供。
封印核の位置。
そして各地の封印核を守るはずの結界、永久凍国土の封印紋章のこと。
五大英雄が持つ紋章の力――聖武具を生成する力のこと。
『知らねぇ……! 教会はそんなにも多くのことを秘匿しているってのか!?』
『落ち着きなさい。ひとまず剣聖アリアリットの言うことを信じるとして……紋章から聖武具を生成できるかどうかや、封印核に聖魔力を注ぐ必要があるということはこちらでも試してみることができる。そして聖女シュリアス、あなたの状況が聞き的状態であることは理解した。我が国から応援を送るよう、王に進言してみよう』
『国を通したやり取りじゃあ、いつになるかわからないんじゃないんですか?』
『そう言われても我らは国に所属する身。自由には動けぬ。まして、教会が敵の可能性があるのでは、より慎重に動かねばならない』
賢者の言うことはごもっともといえる。
私もそれについては同意見。
重要な機密を葬られては、我らの力がさらに削がれてしまうかもしれない。
しかし、クラッツォ王国の状況はちゃんと確認して対処を考えなければならないだろう。
聖女が嘘をつくとは思えないが、私はクラッツォ王国に追放された身。
迂闊に助けに行くわけには……だが……。
『そんな……。もう、わたくし一人ではどうすることもできないのです。どなたかどうかお助けください』
『聖女よ。あなたを疑っているわけではないのです。ともかく、剣聖の言う通り紋章から聖武具を生成してみればよいのでは? どうやら円環や鎧は聖魔力の消費が激しいようだから、聖杖だけでも』
『そうだな。とりあえず聖杖だけでもかなりの強化になるんだろう? 試してみろよ』
『は、はい……』
聖女の力ない声。
聖杖があっても国をすべて覆って守ることはできないのではないだろう。
今こうしている間にも、人々が厄災魔物によって引き起こされた災いで亡くなっている……。
『剣聖アリアリット』
「あ……」
『またなにかわかったら情報を共有してほしい。教会は疑ってかかるべきなのか、私の方でも信じてみる。まずは永久凍国土の封印核への聖魔力供給を優先して、クラッツォ王国の封印核を外部から遮断し守るように。永久凍国土の封印紋章が正しく機能すれば、聖女が倒されてもなんとかなるだろう』
『け、賢者様……我が国を……クラッツォ王国を、見捨てられるのですか……!?』
『合理的に考えた結果である。最悪は厄災魔王の封印が一つでも解けること。厄災魔物にすら手こずる状況の我らが、勇者がいた初代たちですら封印することしかできなかった魔王を、勇者もない我らが倒したり再び封印できるはずもないのだから』
全員の沈黙が流れた。
賢者は最悪の回避のみを提示してきたのだ、仮にも英雄と呼ばれる我らが言い返すこともできないほどの正論。
そうだな……申し訳ないが、今はそれしか……ない。



