『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


「――なるほど、では永久凍国土(ブリザード)の入り口にある封印紋章には定期的な聖魔力の提供が必要だったのですね」
「ああ」
「実は……昨日見つけた文献にそのような文言を見つけたところだったのです。アリア嬢が戻ってきたらご相談しようと思っておりました」
「なんと!」

 該当の文言がある文献をテーブルに広げてもらい、見せてもらう。
 補修を加えた箇所を見ると、確かに古びた文字でそのようなことが書かれている。
 この辺りは百年前の文献というから、少なくとも百年前には教会はちゃんと把握していたということだ。
 永久凍国土(ブリザード)の封印紋章の魔力の枯渇は百年前から供給が止まったことで起こっている……ということは時期的に教会がこの付近から撤退してから始まっているということ。
 時期は合う……か。

「ですが、その話ですと他の土地の封印紋章への魔力供給もほぼ同時期から絶たれていると思われますが」
「そうなんだよな……なぜなのか。封印紋章への聖魔力供給が止まれば、未来の者たちが魔王の復活に見舞われる。教会は封印紋章の維持のために発足した組織のはずなのに、これでは本末転倒ではないか?」
「ええ。しかも世界中の教会が、百年前を境に聖魔力の供給を五大英雄に依頼しなくなったのでしょう? いくらなんでも……」

 さすがにことの重大さを理解するのが早いセッカ先生。
 少し焦ったように口元に指を当てて、眉を寄せる。

「いや、でもそれは……ちょっとわからない。少なくともクラッツォ王国は一番結界が弱くなっているらしいから、永久凍国土(ブリザード)とほぼ同時期から供給が途絶えているのではないだろうか? 今日は早めに家に帰って、今代の五大英雄に紋章を通して聞いてみようと思っているが」
「え? そのようなことができるのですか?」
「できるらしい。永久凍国土(ブリザード)の封印紋章を作ったのは初代聖女様なのだが、紋章に触れると紋章を刻んだ者の意思に触れることができて、知識などを与えてもらえるのだ」
「なんと……そのようなことが……。では、以前アリア嬢が資料室の紋章に触れた時と同じように?」
「ああ」

 資料室にあった紋章は、五代目賢者レアナス様の刻んだもの。
 どういうふうにこのような紋章を残せるのかわからないが、なんというか……記憶に触れるような感じがする。

「ですが、五大英雄同士が連携を取れるとなると……教会がなにかしら動くかもしれませんね。教会が“意図して”聖魔力供給が必要という事実を秘匿していた場合、ですが」
「教会が人類の敵性存在――魔王の配下、ということも視野に入れねばならない、か」
「そうかもしれません。厄災魔王はあくまでも封じられているだけで、討伐できたわけではありませんからね。現代よりも強かった古代魔法を使っていた、勇者リードの世代ですら封印するので精一杯だった厄災魔王が……もしも復活するようなことがあったなら……」

 セッカ先生の不安はもっともだと思う。
 五大英雄が自身の紋章の使い方すらわからなくなっている現代では、厄災魔物とさえ戦うのが難しい。
 私はたまたま、この町の、セッカ先生が調べた紋章の使い方の一部を教えてもらえたからあの時戦うことができたけれど……。

「セッカ先生、五大英雄の紋章について、他に知っていることはあるだろうか?」
「他に知っていること……ですか?」
「ああ。確か五大英雄の紋章は、聖なる武具を生成できると言っていたが、その武具というのは具体的にどんなものなのか、とか……」
「ええ、と……少しお待ちくださいね。確か五大英雄の紋章についての文献は……」

 テーブルから離れて右側の本棚に向かうと、木箱に入った書籍を持って戻ってくる。
 本を開いて該当のページを見つけ出し、私に見やすく本を移動させてくれた。
 かなり大きな本。
 人の腕くらいの大きさ、太ももくらいの分厚さ。
 ページを捲るのも大変そうだった。

「ここです。読めますか?」
「えーと……賢者の知識で、なんとか」

 それによると、紋章の使い方はアイストロフィに来た時に、厄災魔物と戦った聖剣の出し方が五大英雄共通の能力の一つ。
 他に紋章を通して五大英雄同士で対話が行える。
 五大英雄はそれぞれ紋章に聖魔力を注ぐことで聖武具を生成できる――このあたりは聞いていた話だが、剣聖ならば聖剣、賢者には賢者の杖、聖女には聖杖(せいじょう)、槍聖には聖槍、弓聖には聖弓。
 また同じように防具の生成も可能。
 円形の形をしており名称としては『対魔聖円環(たいませいえんかん)』。
 それを用いて空を飛び、結界を張り、魔物の群れを掃討し、魔王を封じ込めるための主柱とした――らしい。
 絵も描かれており、それは賢者の対魔聖円環(たいませいえんかん)であったが、ツンツンがたくさんついた木の平らな丸……?

「不思議な形だな。これで空を飛んだりできるとあるが……こんなものでどうやって空を飛ぶのだろう?」
「さあ……? ですが、アリア嬢は剣聖なのですから対魔聖円環(たいませいえんかん)を出すことができるのでは?」
「いまいちピンとこないけれど……ちょっと試してみてもいいだろうか?」
「ええ、もちろ……」

 さすがに聖剣の時のような状況でぶっつけ本番はあまりやりたくない。
 なので練習を、と思った時、資料室の扉が勢いよく開く。

「大変です、セッカ先生! 厄災魔物が、樹氷の森から出てきました! それも、八体も……!」
「は……八体!? どういうことですか!?」
「わ、わかりません! でも、時々現れていた厄災魔物が全部集まって襲ってきたみたいな……!」

 飛び込んできたのはマニ。
 思わずセッカ先生と顔を見合わせる。
 八体は多すぎる! 聞いたこともないぞ!