『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


「セッカ先生、クラゼリを採ってきたので確認してもらえるだろうか?」
「おや、こんにちは、アリア嬢。今日からお仕事を開始したのですが? ぜひ拝見させていただきたいです」
「こちらだ。間違いないか?」

 資料室に入り、ポシェットからクラゼリを取り出してテーブルに並べてみる。
 本棚の近くにいたセッカ先生が車椅子でテーブルに近づいてきて、私の初仕事の評価に移った。
 一本一本を手に取って確認して、安堵の笑身を浮かべて「はい。確かに」と頷いてくれる。
 その様子と返事に私も思わず胸を撫で下ろした。
 自分で思う以上に緊張していたらしい。

「よかった。できるだけ多めに採集してきたつもりだが、明日もこのくらいでいいだろうか?」
「いえ、もう少し少なくても大丈夫ですよ。このくらいあれば七日分になるので」
「作り置きはできない薬なのか?」
「少々劣化が早いのです。魔植物は時間が経つと魔力が抜けてしまうので……」
「そうなのか」

 そんな特性があるのか。
 まだまだ知らないことがたくさんあるな。
 もっと勉強に励まねば。
 あ、そうだ。
 初代聖女に教えてもらったことをセッカ先生にも伝えて……と彼の方を見ると、薬草を眺めて笑みを称えたまま。
 空気を読むのが苦手な私でもわかる。

「人の心を拒むのは、あなた自身にも負担でしたか」
「え? ああ……やはり聞かれていましたか」

 私は敬遠されていたから、誰かに求められる気持ちはわからない。
 求められる気持ちはわからないが、拒まれる気持ちはよく知っている。
 先程の、勢いで締まった扉。
 クラッツォ王国との時と決定的に違うのは、あなたは私を人として、個人として扱ってくれた人だということ。
 あなたに拒まれたら、私はつらい。
 でも人に助けられて生きているあなたにとって、助けてくれる人の好意を断るのは命に関わる。
 他人に生かされているあなたにとって、他者を拒むのは本当に恐ろしいことだろう。

「みんなに幸せになってほしいと思うのです。本心から」
「わかる。私も剣聖として生きてきたから、みんなに平穏に、幸せに生きてほしいと思っている」
「でも、私は『持たぬ者』なので……誰か一人のものにはなれない。大勢の、町の人たちに私は生かされている。私はこの町のモノ。みんな私が幸せになることを、否定する人はいないと思うのです。でも」
「罪悪感」
「ええ」

 私の場合は婚約者が国王で、剣聖として王都国を守る結婚。
 私の気持ちはそこにはない。
 恋も、愛も、望めない。
 望んだことはない。
 親が私の紋章でどんどんおかしくなったのを見ていたから、私はそういうものを望んではいけないのだと思うようになった。
 だから人並みの幸せを早々に諦めて、剣聖としての人生を受け入れたのだ。
 この人もそうなのだと思う。
 今更生き方を変えられないのはわかるけれど――。

「でも、セッカ先生は私に、剣聖としてではなく“アリアリット・プレディター”として生きるように言ってくれた」
「え……」
「剣聖は仕事にして。薬草師という兼任の仕事も見つけてくれて。私は剣聖以外の生き方をあなたに示してもらった。だからあなたも兼任してみたらいいのでは? 私も諦めていた“普通の人並みの幸せ”を意識してみようと思った。この町の人たちは私を『剣聖だから』と求めない。“アリアリット・プレディター”しての力を求めてくれる。あなたの言う通り、この町の人はきっと誰一人、あなたがあなた自身の幸せを求めることを反対なんてしない。誰に聞いたって同じことを答える。みんなあなたが好きだから」

 普通というのが私にもあなたにも難しいのは仕方ない。
 でも、この町の人はあなたが尽力して“恩返し”してきたから、こんなにもあたたかい。
 この町はあなたへの感謝と恩義と、そして好意で溢れている。
 私もその優しさにあやかっている身だから、あなたが幸せになるのを願う。

「その……だから……今からでも、タァナの気持ちに応えてみる……とか」

 そう提案しておいて、胸がとても痛いし苦しい。
 この感覚は知らない。
 なんなのだろう? わからない。

「いえ。申し訳ないのですが、タァナさんに恋愛感情はないんですよね」
「あ……えーと……そ、そうなのか」
「それになにより子孫も残せないのに、若い女性に想いを寄せられるというのはとても心苦しい」
「女性の幸せは子を産み育て、家庭を守ること。……どこの国でもそう教えられるからな。私のように男より強くてゴツいといわれる女は本当に嫌がられるから、セッカ先生の気持ちはよくわかる」
「アリア嬢も若く健康で愛らしい女性ではないですか」
「若いのは否定しないが、私の場合は男にすら怯えられるくらい強いし、健康というよりは紋章による数多の耐性で頑丈だから……。一国の国王も怯えるほどなのだ。あなたやこの町の人たちが変わっているのだと思う。いや、寛容すぎる?」
「そう、なのですか?」
「多分」

 他の国に行っても、私は“畏怖の対象”だと思う。
 素手で剣を受け止めてへし折れるからな、私。

「私には本当に普通の、可憐なお嬢さんにしか見えないのですがね」
「私自身は……可憐とは真逆の存在だと思っているのだが……あなたにそう言われると悪い気はしないというか、そう見えるのは私の力を見たことがないからだろうな、と思う。きっと町の人たちも、私の剣聖としての力を見たら、考え方が変わるだろう」
「そうでしょうか?」
「きっとな。……だから、あなたが薬草師の仕事を勧めてくれたこと、嬉しかった」

 これは本音。
 不思議だな。本当に。
 あなたには簡単に本音を告げられる。