『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


「ふう……! 今日のところはこれくらいか。また明日来るとしよう」

 封印紋章の中から意識を戻してから、二本の封印紋章の主柱核に聖魔力を注いで久方ぶりに疲労を感じた。
 五大英雄の聖魔力は心から生まれるもの。
 だから肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労だ。
 肉体的な疲労なら、疲労耐性があるからな。
 だが私ならばここまで半日もかけずに来ることができる。
 永久凍国土(ブリザード)の中に入れるのかどうか効くのを忘れてしまったから、明日来たら聞いてみよう。
 今日のところはクラゼリをセッカ先生に届けなければ。

「なんとか薬草師としての仕事をまっとうできそうだ。明日はもっと採集する薬草の種類を増やしてもいいかもしれないな」

 ウキウキしながらアイストロフィに戻り、真っ直ぐに城へ向かう。
 収納魔法具はほぼ時間が停止状態なので、鮮度が高いままだけれどそれよりも早くクラゼリを持って行って安心させたい。

「お、アリアちゃん! 今日は肉串買ってかないのかい?」
「今日はうちのカーリーを食べてくれよ」
「いやいや、うちの飴細工なんかどうだ? 甘いものは嫌いじゃないんだよな?」
「うちの肉粥も食べてくれよ! 野菜たっぷりで美味いぞ!」
「どれも美味しそうだが、セッカ先生に薬草を届けたいのだ。あとでまた寄らせてもらう」

 手を振って屋台の人たちと別れ、城の中で働いている人たちにセッカ先生の居場所をきいてみる。
 あの人は体調が悪いと自室。
 体調がいい時は図書室で勉強しているか、温室で研究をしているらしい。
 そして昼時や夕飯時は孤児院で孤児たちと食事をする。
 それで孤児院の子たちにあれほど懐かれていたのだな。
 ただ、それは表向きの話で……私にはセッカ先生は相当な寂しがりなのではないかと思う。
 体調が悪い時は仕方がないけれど、研究や勉強している時以外は人との対話を楽しんでいるように見えたので。

「あ、マニ」
「あ、アリアさん。今日はどうされたのですか?」
「セッカ先生にクラゼリを届けに来たのだ。どこにいるだろうか?」
「クラゼリ!? 本当ですか!? ありがとうございます! 先生なら今日も図書室の資料室です!」
「わかった。ありがとう。行ってみる」

 偶然廊下で出会ったマニに聞いて正解だった。
 だが、今日()

「セッカ先生は昨日も図書室の資料室に?」
「そうですよ。なんだか深刻な顔で調べ物をしています。クラゼリが足りなくて薬も作れないからとかなんとか……」
「そうなのか……なにか見つけたのだろうか? 聞いてみようかな」

 図書室の資料室はかなり古い教会の文献も、移動して保存してあるとか言っていたからな。
 もしかしたら教会が封印核に聖魔力が必要だという話を秘匿した理由なんかも、わかるかもしれない。
 私も文献を調べてみようか?
 セッカ先生に聞けば見せてもらえるか?

「セッカ様」

 図書室に入り、資料室の扉のノブに手をかけた時、今朝方聞いた女性の声がした。
 あの快活な声はタァナ。
 除雪作業が終わったから、町に帰ってきたのだろう。
 タァナもセッカ先生に用が――?

「わたし、本気です。セッカ様が『持たぬ者』でも全然気にしません! だからわたしと、わたしと結婚してください!」

 ――は。
 え。え。え、えーーーと、え?
 こ、告白……いや、プロポーズしてる?
 あ、でも……タァナはセッカ先生を好きみたいな感じだったからな?
 だがしかしよりにもよって今……!?
 聞いてしまったんだが!?

「すみません、タァナさん。私は生涯、誰とも結婚する気はありません」
「っ! 『持たぬ者』なのは気にしません!」
「あなたが想像しているよりも、『持たぬ者』の呪いは体のあらゆる場所に障害があるのです。魔法具で補助できない機能もあります。たとえば味覚。それから性欲。そして生殖機能。私は子孫を残す機能を持ちません」
「そ……そんな……」

 ドア越しでタァナの声がどんどん落ち込んでいくのがわかる。
 この世界で子孫を残すことができないのは、人間社会の役に立てないということ。
 労働力を増やせない。
 家を継ぐ世継ぎを作れないのは、庶民としても貴族としても致命的。
 だが、そんなの関係ないほどセッカ先生は十分に社会に貢献している。
 私なら――! ……私なら……? なんだ?

「そ、それでもいいです! それでもいいですよ!?」
「あなたは健康な若い女性なのですから、私のような欠陥品ではなく健康な若い男性と結婚して子を育む“普通の幸せ”を得てください。それが一番の幸せです」

 声がとても優しい。
 優しいのに、明確に一線引いている。
 ドアノブから手を離して、図書室の本棚に近づく。
 裏側に回り込んで、天井を見上げながらバクバク鳴る心音を抑えるように胸を撫でた。
 なんだこの心臓の音。
 早すぎる。
 こんなに、痛いくらいに心臓が鳴るなんて初めてでどうしたものかと……。

「う……っうう……!」

 資料室の扉が開き、タァナが走って図書室から出ていく。
 セッカ先生は、あのままタァナを拒否したんだろうか。
 乱雑に開かれた扉が、静かに閉まっていく。
 まるであの人に拒絶されたような気持ちになった。
 いや、そんなわけがない。
 首を横に振るが、すぐに資料室に入る自信が……なんか、ない。

「むう……」

 なんなのだ、このモヤモヤした気持ち。感覚。
 なんか……なんか……っなんか!
 なんかーーー!

「関係ない。行こうっ」