『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


「雪が止むことがないので、空は明るんでいても雲に覆われています。青空を見ることはないですね」
「そう、なのですね」
 
 普通の感覚ではちょっと想像ができないけれど、青い空が見えないことで気持ちが落ち込む人もいるのだそうだ。
 そういう繊細な人間もいるのだな。
 
「わかった。確かにそういう理由であるのならば、剣聖である私が協力することには理屈が通る。紋章のことも、私の知らない力がまだあるのだとしたら知っておきたい。ぜひ協力させてほしい」
「いえ、ですから剣聖としてではなくアリア嬢に(・・・・・)お仕事として(・・・・・・)受けていただきたいのです」
「ふぇ……」

 盛大に変な声が出た。
 剣聖としてではなく?
 私として?
 どどどどういうことだ?

「アリア嬢には剣聖のお仕事として、調査を協力してください。お給金をお支払いしますので」
「剣聖を、仕事として、ということだろうか?」
「その通りです」

 ぽかーん、となってしまった。
 剣聖が、仕事?
 そんなふうに考えたことがなかった。

「今後は剣聖としてではなく、薬草師としても活動していただくのですから、役職は分けて考えて行くべきでしょう?」
「そ……そう、なのだろうか?」
「そうですよ」

 剣聖でしかなかった私は、その感覚がまだよくわからない。
 わからないけれど、私は『剣聖』以外にもなれるかもしれない……?

「お願いしてもいいですか」
「あ、ああ! もちろん……!」
「では、今日のところは住む家を探して来てください。ケイジとエイラには来てもらっていますから、一階の談話室に行ってみてください。これが紹介状です」
「ありがとう、セッカ先生」
 
 紹介状を受け取り、言われた通り温室を出てから渡り廊下を歩いて棟に戻る。
 一階の談話室は四つあるが、使用中になっている談話室をノックすると男女の声で返事がきた。
 おそらくこの人たちだ。
 
「失礼します。アリアリット・プレディターという。セッカ先生に紹介状をいただいてきた。家を紹介していただきたい」
「ああ、あなたが。お噂はお聞きしておりました。私は不動産を担当しております、ケイジ。こちらは妻のエイラ。紹介状をお預かりしても?」
「こちらだ」

 紹介状を手渡すと、すぐに封を開いて中身を確認する。
 その後、先程セッカ先生と話をした内容と私の希望をすり合わせ。
 と言っても、自分で自分の家を選ぶというのをやったことがなくてよくわからない。
 それを伝えると、ひとまず一人で暮らしていける広さと、今後どのような生活をしていくつもりなのかを考慮して、あとは趣味で決めればいいとのこと。
 趣味……趣味?

「あとは、そうですね……アリアリット様は防寒具も購入された方がよろしいかと」
「私は剣聖の紋章で寒さにも耐性があって……」
「見ている方が寒いのです」

 エイラさんにそう言われて、自分の格好を見下ろす。
 まあ……クラッツォ王国にいた頃の格好のままだしな?
 クラッツォ王国は割と春の陽気の国。
 長袖ではあるが、薄着でもある。
 人から見たら確かに寒そう、か。

「しかし今、あまり手持ちがなくて……」
「え!? そうなのですか!?」
「ええと……家の購入や家具の資金はセッカ様から一時的に全額を出されるとのことですが、その後の生活はどうなさるおつもりですか?」
「え……ええと……え? 全額?」
「ええ、こちらにそう書かれております」

 と、言われて紹介状を見せられた。
 そこには確かに『セッカ・ヴォルティスキーが、アリアリット・プレディター嬢の家の購入費及び家具一式を全額補填する』と記載がある。
 な、な、な、なんっ……!

「ちょっとセッカ先生に聞いてきてもよろしいか!?」
「「ど、どうぞ」」

 聞いていない!
 生活にお金が必要なのは、十分に理解している。
 だが、それを全額面倒を見てもらうなんてさすがに……!

「セッカ先生! 家のお金についてなのだが!」
「はい?」

 温室に戻ると、セッカ先生は私が使ったお茶のカップを洗っているところだった。
 私が紹介状に書いてあることを詰めるとあっさり「ええ、ですから“仕事”をお願いしたのですよ」と返される。
 仕事、というと先程の城の地下の封印紋章の調査の話。

「剣聖――いえ、五大英雄の力の一つをお借りするのですから、家一軒分の対価は当然かと思っております。あなたが来なければ、永遠に調査はできなかったのですから」
「いや! しかし、それはさすがに……多すぎではないだろうか!?」
「アリア嬢、他国はどうだか知りませんが、この国では少なくとも仕事をする者には能力に見合った給金を支払います。仕事をする者たちはその給金に見合う働きをするために、日々研鑽を重ねて努力を惜しまない。この食器一つ、この町の誰かが己の能力を高めて作り出しているものなのです。その努力に報いたいと思うのは、自然なことではありませんか?」
「う……それは……」

 その考えはわかる。
 騎士団でも実力に見合った地位と給料が約束されているのだ。
 その実力は、努力によって得られるものであればいいと思う。
 クラッツォ王国は貴族の家格やしがらみも関係して、実力がある者が上へ行くのが難しい場合もある。
 そういう者たちの努力を見ているから、特に。