『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


「なので、まあ……私は周りの人々のおかげで生きてこれたので……返さねば」

 それを言われた時、私の中で時間が止まったような気がした。
 自分の人生を振り返って、自分の周りの人々に言われた言葉や態度を思い返していたように思う。
 化け物、怪物、怖い、気持ちが悪い、気味が悪い、女らしくない、魔物と同じ生き物、ゴツくて女の自覚がない。
 怖がられ、遠目に見られ、張りついた笑顔の下で怯えられる。
 親は物心ついた頃には貴族の汚い部分を煮詰めたようになりつつあったから、私は他の子どものように甘えることもできなくて。
 この人は最初から弱かったから、守られて助けられてきたんだろう。

「あなたは、とても愛されて生きてこられたのだな」

 目を伏せたまま、セッカ先生がぽかん、と口を開けて私を見ている。
 こんな私をあなたのなにも映さないはずの目にどう映るのだろう。
 別に、古代魔法術式でどう見えるのか、という話ではなくて。

「あなたは、剣聖として、誠実に生きてこられたのですね」

 そう返された瞬間、目の前がチカチカと点滅したような気がした。
 真正面から向き合っていたはずなのに、その時に初めて人と目が合ったような感覚。
 それから次第に、衝撃が降りてくる。
 私は私の人生を、剣聖として誠実だったと評されたのだ。
 そうだ。
 私は生まれた時から剣聖だった。
 剣聖以外になることを許されずに生きてきた。
 それは当たり前だし、事実そうだったから気にしたこともなかったけれど。

「他の五大英雄がそうであるように、世界は五大英雄に『五大英雄』として『国守』としての役割を担っていただきますから……仕方がない面もあるのでしょうけれど……。でも、アイストロフィは国ではなく町ですし、守ってもらわなくとも十分外壁の結界が町を守っていますから、これからはアリア嬢としての人生を生きてくださいね。そうだ、その話もしなければ。アリア嬢の今後住む場所や、仕事の話も……」

 私は、もう自由になったから。
 そうだな。
 私は私の――アリアリット・プレディターという人間としての人生を、これから生きていくんだ。
 もう、なにも守らなくていい。
 誰かにそれを強要されることもないのだ。
 自分でやりたいことをやる。
 強くなりたいし、知らないことを知りたい。
 剣聖の私も、もちろん私だけれど……それだけではなくて。

「うん……私がなにを好きで、戦う以外になにができる人間なのかを……知りたい」

 私という、剣聖ではない部分の私を、私はこれから育てていく。
 学んで、育み、剣聖以外の私を私は知りたいのだ。

「ええ、そうしましょう。希望は永久凍国土(ブリザード)の探索、ということでよろしいでしょうか?」
「ああ。未踏というところに非常に惹かれるものがある」
「ふふ。それでしたらやはり探索冒険隊がいいでしょうか。永久凍国土(ブリザード)探索を掲げた冒険者のパーティーなのですが、彼らの仲間に入りますか?」
「う……うーん……」

 冒険者のパーティーか。
 マルタが言っていた、なんだっけ、ロット組?
 正直、大人数が徒党を組んでいるところに入る自信がない。
 私は国守兼剣聖として騎士団に在籍していたが、騎士を鍛える役目を担っていた。
 いわば教官である。
 年上から年下の新米騎士まで幅広く、毎日毎日朝早くから夜遅くまで。
 残念ながら、気さくに話をするような師弟関係を築くことはできなかった。
 何百人も指導して、一人もだ。
 いや、気持ちはわからないでもない。
 私が騎士団に入ったのは六歳の時。
 聖魔力の使い方も上手くない時期で、その二年前には聖魔力の暴走で城の一部を大きく破壊したらしい。
 物心つく前なので、覚えてないのだが。
 騎士団で私は力の使い方を一年で学び、翌年には私に勝てる騎士は一人もいなくなった。
 目を閉じても、片手でも、両足を動かさずとも、それほどまでにハンデを入れても私に勝てる騎士は現れなかったのだ。
 自分の異様な強さを自覚したのも、その頃。
 私は人とは違うのだと、明確に理解した。
 だから集団の中に入るのはとても不安がある。
 この町の人たちは優しい。
 だが、だからこそ私の異質さが浮き彫りになって、騎士団のようになったらと思うと申し訳がない。

「不安に思われますか?」
「私は強すぎて、普通の人々の連携をダメにしてしまうので集団ではない方がいいように思うのだ。クラッツォ王国の騎士団でも、私が連携を邪魔して作戦を台無しにしてしまったことがある。私は剣聖で、強いので……私一人で作戦が完結してしまう。すでに関係性ができている冒険者のパーティーであれば、それは如実ではなかろうかと……」
「なるほど。そうですね。確かに……。そのあたりは私も配慮が足りなくて申し訳ありません」
「いやいや」

 セッカ先生が謝ることではない。
 私が不器用すぎる。
 だが、セッカ先生は「あ」と声を出して手を叩く。

「では、アマルさんに弟子入りしてはいかがでしょう?」
「え……!? 弟子入り!? 私が!?」

 何者だ、アマルさん!?
 あれ? いや、でも聞いたことがある名前のようなそうでないような。
 聞いたことあるか?

「アマルさんは薬草師兼薬師の方です。私にとっても薬草の知識の師匠である方なのですよ。大変に豊富な知識をお持ちです。ですが、先日自宅で足を折ってしまいまして」
「あ……」

 なんかそんな話聞いた気がする――!