『ゴツすぎる』と婚約破棄されて追放されたけど、夢だった北の大地で楽しくやってます!〜故郷は剣聖の私なしにどうやって災厄魔物から国を守るんだろう?まあ、もう関係ないからいっか!〜


 風呂から出ると、すでにパルセが待っていた。
 マニは図書室に向かったらしく、一人で。
 子どもが一人でいること自体、クラッツォ王国では『人攫いに遭うから』と危険視されるというのに……。
 いや、一応ここは町の中、城の中。
 子どもが一人でいても、問題はない……のか?
 
「おかえりー。それじゃあ、お姉ちゃんのお部屋探しに行こうー」
「部屋を探しに行く……?」
「それじゃあ、アリアさん。私はこれで」
「あ、ああ。色々教えてくれて、ありがとう」
 
 マルタとはそこで分かれて、パルセとともに二階へ上がる。
 ゲストルームはこの棟の二階の東に集中しているのだそうだ。
 
「一階には食堂とかもあるよー。西棟の廊下にお店も出てるしね」
「ゲストルームは今、空いてるところばかりだから好きな部屋使っていいよ」
「ありがとう」
 
 なら、階段から一番近い部屋を使わせていただこう。
 パルセとレサ、ロールが部屋の鍵の場所を教えてくれて、そのまま「また明日ねー」と置いて行かれてしまった。
 城のゲストルームというだけあって、一応一定以上のモノが整えられている。
 赤を基調とした絨毯や壁紙、カーテンは少し心休まるとは思えないけれど……。
 椅子を引いて窓際に持って行き、座って外を眺めてみる。
 巨大な氷の壁が町を包む。
 舞う雪と蒸気で白んだ町。
 太陽光に反射して、雪がキラキラとしていてとても神秘的。
 これが、私が憧れた場所から一番近い町。
 
「よし! 明日から色々学んで……永久凍国土(ブリザード)を踏破してみせるぞ。もっと強くなって……」
 
 強くなってなにをしようというのだろう?
 だが、『剣聖の紋章』がそう思わせるのか――私はずっと幼い頃から『強くなりたい』という焦燥感に苛まれてきた。
 今もそれは変わらない。
 紋章がそう思わせるのか――でも、私自身もそう思っている。
 強くなれば……独りでも寂しいと思わないはずだ。
 この町の人たちは私が剣聖でもあまり態度が変わらずに察してくれるけれど、それもいつまで続くかわからない。
 私は剣聖。
 独りでも強さを求めるという目的さえあれば大丈夫。
 睡眠は耐性もあるけれど、確かに強行で来たのだから今日のところは睡眠耐性を切ってゆっくりと眠ろう。
 ベッドに入って目を閉じる。
 体がなんとも暖かい。
 睡眠耐性を切っただけでこんなにベッドの中が心地よいと感じるなんて……。
 お腹も空いているので、先になにか食べた方がよかったか?
 いや、なんかもう……今は眠い。
 ただひたすらに、泥のように眠りたい……。
 
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
 
「んんんん〜〜〜〜……すっかり爆睡してしまったー」
 
 早い時間に眠ったせいか、上半身だけ起こして背伸びをするとばきっと体のどこかが鳴る程度には強張っていた。
 だがなんと心地の良い朝だろう。
 こんなに心身ともに満ち足りた朝は久しぶりだ。
 だが懐中時計を見たら昼の11時。
 ……前世朝じゃなかった。
 
「いかん。完璧に寝過ごしている。こんなに寝過ごしたの初めてかもしらん……。セッカ先生にはお会いできるだろうか」
 
 なんとなく多忙そうな人だったからなー。
 収納魔石道具から服を取り出して着替え、部屋を出る。
 えっと……とりあえずどうしたものだろう。
 起き抜けにお腹すいているから、まずは食事か?
 確か一階に食堂があるし、廊下に露店が出ていたな。
 ……改めて考えると城の廊下に露店が並んでいるのはおかしくないか?
 なにがどうしてそんなことに……?
 
「まあいいか。とりあえず腹ごなしをしよう」
 
 財布を片手に部屋から出る。
 鍵は部屋前の小箱に入れて、一階に下りてみた。
 昨日も思ったけれど美味しそうな匂いが充満している。
 
「お、昨日来た新しい人かい。昼ご飯をお探しなら、うちの肉串はいかがかな」
「肉串! 美味しそうだな。いただこう! ……あ、通貨はアトラで大丈夫か?」
「もちろん。独自硬貨を設定しているのは帝国だけだからな」
「ありがとう。ちなみになんの肉だ?」
 
 牛や豚やラックではなさそうだが。
 と、覗き込むと野生のアイスボアの肉だそうだ。
 アイスボア、一応魔物に部類される。
 獣と厄災魔物と普通の魔物の違いは明確で、まず魔物と厄災魔物は体内に魔石を持っていること。
 そして普通の魔物と厄災魔物の違いは魔石の数の違い。
 普通の魔物の体内にある魔石は一つだが、厄災魔物の体内にある魔石は三つ以上。
 しかも属性の異なる魔石であることが多い。
 そのため厄災魔物は複数の属性を持つ。
 その上体も大きく頑丈。
 陶器のような部分があるのも特徴だ。
 さらにこのように普通の魔物は獣のように魔石を抜けば食べることができる。
 厄災魔物は肉や血液に毒があり、倒しても適切に処理して焼かなければならず食べるなんて到底無理。
 とはいえ……アイスボアは魔物であることにかわりない。
 倒すのも食べられるようにするのも手間なのに、城の廊下の露店で出しているとは。
 いや、だから城の廊下に屋台があるのがおかしいのだけれど。
 
「何本にする?」
「では五本で」
「お……!? お嬢ちゃん!? 肉串、結構でっかいぞ、これ。女の子なら一本で腹一杯になるぞ。五本はやめといた方が……」
「大丈夫だ! 任せろ!」
 
 少し驚いた。
 私を“普通の女の子”と思っている。
 まあ、まだ剣聖と知らない人の方が多いだろうから仕方ない。
 心配する店主を押し切って五本の肉串を購入。
 一本100アトラと格安。