「わたし、元々は事務員として働いてたの。5年付き合った同じ年の彼もいて、このまま結婚かな〜ってくらい平穏な毎日だった。でも、ある夜、、、仕事から帰って来たら、彼がクローゼットの中で首を吊ってた。」
わたしはいまだにあの光景を忘れる事が出来ない。
いや、一生忘れる事なんて出来ないかもしれない。
「その時は理由も分からなくて、泣き崩れた。でも、そのあと彼が浮気してたのが分かって、その浮気相手を妊娠させてしまったことを知らされた。きっと、妊娠させてしまった責任は取れない、わたしにも言えずで追い詰められて、自死を選んだんでしょうね。わたしを裏切った上にわたしからも、浮気相手からも逃げたのよ。浮気相手からは、あんたの彼氏の子なんだから、あんたが養育費を払えって言われて、意味が分からなかった。」
わたしはそう言って笑うと、トマトを口の中へ運んだ。
「頭おかしいですね、その浮気相手の女。」
諏訪さんの言葉にわたしは「でしょ?」と言い、話を続けた。
「それで思ったの。今まで真面目に生きてきたけど、"真面目に生きてれば報われる"なんて嘘だって。何かそれを信じてきた、自分が馬鹿らしくなってきちゃって。それで、今までの自分を捨てて、この街に引っ越して来て、夜の仕事を始めた。今までの自分とは真逆のことをしたくなっちゃったんだよね。で、レミって源氏名は、浮気相手の女の名前なの。」
わたしがそう言うと、諏訪さんは「なるほど。」と言い、まるでわたしを可哀想とでも思っているような切ない表情でわたしを見た。
「可哀想だなんて思わないでね?今のわたしは、全ての感情を捨てて、ただ生きてるだけ。だから、誰のことも信じないし、恋をすることもない。」
わたしの言葉を聞いていた諏訪さんは、何も言わずにわたしを抱き寄せた。
そして、「僕が元の莉子さんに戻してみせますよ。」と囁き、「いつか、仮面を外して悲しい瞳をしていない兎に戻してみせます。」と言ったのだった。



