今更だがお互いに自己紹介をして、連絡先を交換してもらった。
 電車も同じ方面、偶然にも同じ駅。

「マンションまで送ろうか?」
「大丈夫です! すぐそこなので」
「自分が思っているよりもフラフラだから、気をつけて帰れよ」
 そっと頭を撫でてくれる蓮にときめいてしまうのは酔っているからだろうか?

「じゃ、また」
 爽やかに手を上げて去って行く蓮の後ろ姿を見ながら、瑠花は火照った頬を両手で押さえた。

 かっこよくて優しくて爽やかなんてズルくない?
 幸せな気分のままマンションに向かって歩いているとスマホがチリンとメッセージを受信する。

『無事にマンションついたら連絡して』
 心配してくれている?
『もうすぐ着……』
 着いたらなのに今すぐ返信してしまうなんて、浮かれているのがバレてしまうだろうか?

 瑠花は暗い歩道を照らす街頭の下で立ち止まり、メッセージの返信を打つのに夢中だった。
 普段ならこんな遅い時間には歩かないようにしているのに。
 普段なら駅から急いで帰るのに。

「ねぇ、ひとり?」
 驚きすぎた瑠花は、思わず送信ボタンを押してしまった。

「さっきの男、……彼氏?」
 暗い夜道ではフードを被った相手の顔は見えない。
 声は男性にしては少し高めで若そうな声だけれど……。

 瑠花はスマホと鞄を抱えて走った。

 あのコンビニまで行けば、店員さんがなんとかしてくれるかもしれない。
 なんで急いで帰らなかったんだろう。
 なんでいつもよりも帰りが遅いことに気づかなかったんだろう。
 なんで周りを見てから帰らなかったんだろう。

 今更、そんなことを思っても、もう遅い。

「待ってよ」
 瑠花がどんなにがんばっても男の足には敵わず、あっさりと腕を掴まれた瑠花の身体はブルブルと震えた。