スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~

 知らない人が「自分も見た」と返信し、「怪我の手当をしていたのは若い人だったよ」「選挙の人は後から来た」というコメントがついていく。
 次は日時と交差点名もしっかりと記載し「手当てしたのは大久間ではないのにワイドショーで褒められてておかしい。背が高い若い男性だったのに」と正臣に送った。

 これはWebニュースの選挙タブの中に掲載された。

 難しいことはよくわからないが、身元がバレないようにするために警察のスマホから海外のサーバーを経由して投稿してくれているそうだ。
 だから瑠花の名前は一切出ない。
 でも間違いなく一言一句、句読点の位置も自分が書いた文章だった。

 このつぶやきは三日後にはワイドショーで取り上げてくれるほど大きなニュースに。

「瑠花ちゃん、松岡紗友里がテレビに!」
 凛から連絡をもらい、テレビをつけると一人の女性がたくさんのカメラとマイクに囲まれていた。
 大久間が高校生を助けたという記事にはしっかりと松岡紗友里の名前が書かれていたため、どういうことなのか説明を求められたようだ。

『私は見たままを記事にしただけです!』
『ですが若い男性が手当てしたと』
『車に乗せようとしたところに居合わせて、高校生の足が手当されていたので大久間候補がしたと思ったんです!』
『事実確認はしなかったんですか?』
 記者たちから逃げる紗友里の言い訳はだいぶ苦しそうだ。

 瑠花はテレビを見ながら次の記事を正臣に。
 翌日はSNSがざわつき、月曜のワイドショーに映っていたのは紗友里ではなく大久間だった。

『お嬢さんに嘘の記事を公表させたのですか?』
『姓が違うのは疑いをかけられないためですか?』
『わしは何も知らん!』
 慌てて逃げるように去っていく大久間。

 そのテレビを見ながら瑠花は次の記事を書いた。

 次の記事は大久間の息子、松岡虎二郎についてだ。
 女性を襲ったのに父親の権力で事件を握りつぶしたと。
 だが、この記事は弁護士である凛に止められた。

「名誉毀損で逆に訴えられるかもしれないわ」
 そうか。大久間が権力を使ったという物的証拠がないからダメなんだ。
 凛との電話を終えた瑠花は、なかなか難しいなと溜息をついた。

    ◇

「なんなんだ!どいつもこいつも!」
 選挙事務所の奥で大久間はテーブルを思いっきり叩いた。

「紗友里! おまえの記事のせいで!」
「なによ! お父さんだって賛成してくれたじゃない!」
「ここで父と呼ぶな!」
 このままでは当選できないかもしれない。
 おまえのせいで組織票も下がっていると党の重鎮からも苦情の電話があった。

「紗友里も虎二郎も、余計な事はするなよ!」
 いいか、わかったな! と大久間は立ち上がる。
 秘書である長男の龍一郎を連れ、大久間は選挙事務所から出て行った。

「なによ。あんなにノリノリだったくせに」
「高校生だっけ? そいつの口止めだけじゃダメだったね、ねーちゃん」
「コロちゃんうるさいわよ」
 はぁと盛大な溜息をつきながら、紗友里はお茶のペットボトルをイッキ飲みする。

「あんた、女を探してるらしいじゃない」
「泣き顔が超好みなんだけど、名前しかわからなくってさ」
 今までの女と全然違うんだと話しながら虎二郎はスマホを手に取る。

「変なことするんじゃないわよ」
 はいはーいと軽く返事をしながら、たった今、着信があったメッセージを虎二郎は開いた。

「……へぇ、こんないいマンションに住んでいるんだ」
 情報屋からのメッセージには以前住んでいたマンションに届いた荷物を取りに来た女の写真、その荷物を持って入って行った弁護士事務所、そのあと行ったマンション、そしてベランダで洗濯物を干す瑠花の写真が添付されている。

「愛しのルカちゃん見ぃつけた」
「次の日曜が投票日なんだから大人しくしていなさいよ」
「ちょっと会いに行くくらいいいだろ?」
 お父さんに怒られるから行かない方がいいと止める紗友里に適当に返事を返した虎二郎は、瑠花の写真を見ながらニヤニヤと笑った。