ちょっと欲張りすぎたかもしれない。
今日買ったばかりのルームウエアを着た瑠花は、洗面の鏡の前で赤面した。
夏だから短い方が涼しいよねと思ったこのショートパンツは短すぎ、セットの上半身は首元がセクシーにあいている。
こんなルームウエアが許されるのはセクシーなお姉さんだけだ。
マネキンに騙された!
サラサラの生地は着心地がいいけれど、大きめの方が涼しいですよって言った店員さん、大きいと首元がさらにあいてセクシーすぎます。
彼とおそろいで着られますよって言葉に釣られた私の馬鹿!
まず自分に似合うかを考えないといけなかったのに!
瑠花はそろりとバスルームを出る。
「瑠花?」
キッチンにいるだろうと思っていた蓮がまさか玄関の方にいるだなんて想像もしていなかった瑠花は、心臓が飛び出そうなほど驚いた。
一番大きいサイズを買ったはずなのに、蓮のたくましすぎる身体は隠れていない。
マネキンよりかっこいいってズルくない?
「可愛すぎるから、その姿は俺以外に見せないでくれ」
宅配もダメだと言われた瑠花はコクコクと頷く。
「蓮さんも、他の人に見せたらダメです」
「男のルームウエア姿なんて誰も興味ないだろ」
自分の魅力を全くわかっていない蓮に瑠花は絶対ダメだと念を押した。
ソファーでテレビを見ていても蓮の視線が気になってしまう。
やっぱり首周りがあきすぎて恥ずかしい。
「ごめん、瑠花。今日は我慢しようと思ったんだけど……」
淹れたばかりのキリマ・ンジャロコーヒーを飲まずにテーブルに戻した蓮は、可愛すぎて我慢できないと瑠花の首筋に顔を寄せた。
◇
「もう帰りたい~」
ブラインドを閉めた選挙事務所の中でようやく椅子に座った虎二郎は、テーブルに足を乗せながら天井を仰いだ。
運悪く警察に捕まり、釈放されてからやっと1ヶ月。
親父の選挙が始まるから問題だけは起こすなと言われていたのに捕まったせいで、やりたくもない選挙の手伝いをさせられている。
せっかく親子だとわからないように松岡を名乗っているのに、親父の権力を使ったせいで親子だとバレるではないかとこっぴどく叱られた。
あの時、男の邪魔さえ入らなければ、あのウサギみたいな女とヤレたのに。
ちょっとフラフラな歩き方も、怯えた顔も良かったし、泣き顔は最高にそそられたのに。
「あ~、退屈」
釈放された翌日から数日の間、毎日あの駅で待っていたが女は現れなかった。
警察に手を回したが、住所も名前も教えてくれなかった。
どこに行ったらあの女に会えるのか。
あと数日、駅で待ってみるか?
「コロちゃん、ちょっとこの記事チェックして」
「はいはい、おねーさま」
コジロウだからコロって、犬じゃねぇけど。
タブレットに表示された記事の見出しは『自転車で転んだ男子高校生に手を貸す候補者、選挙カーで自宅まで送る』というどうでもいい記事。
「ナニコレ」
「国民ひとりひとりに寄り添いますってイメージをつけるためよ」
「この下に街頭演説の写真でも入れたら?」
「ワオ! コロちゃん天才」
冗談で言ったつもりが、採用されてしまった。
虎二郎は溜息をつきながらタブレットに入った写真をスクロールする。
この事務所の前で有権者と握手する様子、駅前の街頭演説、いろいろな場所を通過する選挙カー、男の後ろ姿と隣の小さい女の後ろ姿。
「……見ぃつけた」
もう会えないと思っていたけれど。
「俺たち運命の赤い糸で結ばれてるじゃん」
笑った顔よりも怯えて泣きそうな顔の方が絶対に可愛いのに。
虎二郎は自分のスマホにこの写真を転送する。
『この女の情報くれたら金をやる』
虎二郎は情報屋に写真をばら撒きながら口の端を上げた。
今日買ったばかりのルームウエアを着た瑠花は、洗面の鏡の前で赤面した。
夏だから短い方が涼しいよねと思ったこのショートパンツは短すぎ、セットの上半身は首元がセクシーにあいている。
こんなルームウエアが許されるのはセクシーなお姉さんだけだ。
マネキンに騙された!
サラサラの生地は着心地がいいけれど、大きめの方が涼しいですよって言った店員さん、大きいと首元がさらにあいてセクシーすぎます。
彼とおそろいで着られますよって言葉に釣られた私の馬鹿!
まず自分に似合うかを考えないといけなかったのに!
瑠花はそろりとバスルームを出る。
「瑠花?」
キッチンにいるだろうと思っていた蓮がまさか玄関の方にいるだなんて想像もしていなかった瑠花は、心臓が飛び出そうなほど驚いた。
一番大きいサイズを買ったはずなのに、蓮のたくましすぎる身体は隠れていない。
マネキンよりかっこいいってズルくない?
「可愛すぎるから、その姿は俺以外に見せないでくれ」
宅配もダメだと言われた瑠花はコクコクと頷く。
「蓮さんも、他の人に見せたらダメです」
「男のルームウエア姿なんて誰も興味ないだろ」
自分の魅力を全くわかっていない蓮に瑠花は絶対ダメだと念を押した。
ソファーでテレビを見ていても蓮の視線が気になってしまう。
やっぱり首周りがあきすぎて恥ずかしい。
「ごめん、瑠花。今日は我慢しようと思ったんだけど……」
淹れたばかりのキリマ・ンジャロコーヒーを飲まずにテーブルに戻した蓮は、可愛すぎて我慢できないと瑠花の首筋に顔を寄せた。
◇
「もう帰りたい~」
ブラインドを閉めた選挙事務所の中でようやく椅子に座った虎二郎は、テーブルに足を乗せながら天井を仰いだ。
運悪く警察に捕まり、釈放されてからやっと1ヶ月。
親父の選挙が始まるから問題だけは起こすなと言われていたのに捕まったせいで、やりたくもない選挙の手伝いをさせられている。
せっかく親子だとわからないように松岡を名乗っているのに、親父の権力を使ったせいで親子だとバレるではないかとこっぴどく叱られた。
あの時、男の邪魔さえ入らなければ、あのウサギみたいな女とヤレたのに。
ちょっとフラフラな歩き方も、怯えた顔も良かったし、泣き顔は最高にそそられたのに。
「あ~、退屈」
釈放された翌日から数日の間、毎日あの駅で待っていたが女は現れなかった。
警察に手を回したが、住所も名前も教えてくれなかった。
どこに行ったらあの女に会えるのか。
あと数日、駅で待ってみるか?
「コロちゃん、ちょっとこの記事チェックして」
「はいはい、おねーさま」
コジロウだからコロって、犬じゃねぇけど。
タブレットに表示された記事の見出しは『自転車で転んだ男子高校生に手を貸す候補者、選挙カーで自宅まで送る』というどうでもいい記事。
「ナニコレ」
「国民ひとりひとりに寄り添いますってイメージをつけるためよ」
「この下に街頭演説の写真でも入れたら?」
「ワオ! コロちゃん天才」
冗談で言ったつもりが、採用されてしまった。
虎二郎は溜息をつきながらタブレットに入った写真をスクロールする。
この事務所の前で有権者と握手する様子、駅前の街頭演説、いろいろな場所を通過する選挙カー、男の後ろ姿と隣の小さい女の後ろ姿。
「……見ぃつけた」
もう会えないと思っていたけれど。
「俺たち運命の赤い糸で結ばれてるじゃん」
笑った顔よりも怯えて泣きそうな顔の方が絶対に可愛いのに。
虎二郎は自分のスマホにこの写真を転送する。
『この女の情報くれたら金をやる』
虎二郎は情報屋に写真をばら撒きながら口の端を上げた。



