「あ、コレは無事だよ」
果汁まみれになったリンゴを指差し楽しそうに笑う彼。
「ね、ね。まだ時間ある? あるなら、リンゴ剥いてよ」
パァッと表情が明るくなる彼。
もちろん、そのつもりで持ってきたからコクリと頷いた。
「う、うん……! それじゃあ、洗ってくるね。えっと……」
「洗う場所なら、そこ使って。個室って便利だよね。部屋の中に色んなものがあるから」
彼が指差す先にある蛇口でリンゴを洗い、近くにあったペーパーで水気を拭き取った。
「さ、座って座って。はい」
ベッドの脇にある椅子に座るよう促され、近くには果物ナイフがあった。
「病院の個室って、果物ナイフまであるの?」
「えー、ないない。流石にこれは僕の家のだよ」
言ってから、それはたしかにと妙に納得した。
病院について無知なことが恥ずかしくなった。
リンゴの皮を剥くのに集中しても、彼がじっと私の手元を見ているのが分かった。
「……上手いね」
「そ、そう?」
本当は、樹くんのために家でいっぱい練習したんだけどね。
ここ最近の朝ごはんと夜ご飯の後には家族みんなでリンゴを食べるほどに。
でも、これは私の中だけで秘密にしておくこと。


