「屋上でのこと、覚えてる?」
もちろん、忘れるはずがない。
こくりと頷いた。
私が投げ出そうとした人生は、樹くんによって救われた。
そして、私の時間を欲しいって言ってくれた。
それは、初めて私が求められていると実感できたことだった。
「美華ちゃんのこと、もっと知りたい。そのためには、他の誰にも邪魔されず、美華ちゃんを独占したい」
本心なのか、からかわれているのか分からない。
ただ、彼の目はまっすぐ私を捉えて離さなかった。
その間、全ての動きがスローモーションになっている気がした。
それでも、家へはどんどん近付いていた。
突き当たりの道を右へ曲がろうとした時、足を止めた。
「あ……私、ここ左」
「あ、そうなんだ。僕と一夜は過ごさなくて大丈夫そう?」
クスクスと笑いながら言う彼。
最初からその気がないのは、みえみえだ。
「ふふっ。うん」
「僕としては過ごして欲しかったなー、なんて。それじゃあ、また明日! ……保健室で待ってるから」
そう言うと、彼は大きく両手で手を振ってくれた。
お互い、姿が見えなくなるまで手を振りあった。


