「いたいよ、だけど無理なんだ……」



「なんで?」



引っかかってはいた。あんなにも美央の事が好きなんだろうなと見てたらわかるのになぜ急にこんな事言い出したのか。



やつは最後まで悩んでいたが「まぁいっか……」と声を漏らし口を開いた。



「俺の親父がコミュニティっていう会社の社長なんだ」



コミュニティってあの大手企業の!?って事はこいつは社長の息子って事か……



「それで僕には許嫁がいてね、お互いの利益の為の婚約なんだ。だから僕は美央とはいることができない」



話すにつれどんどん声が小さく弱々しくなっていった。



許嫁、か……



「本当は嫌だよ。だけどもし僕があの家に美央と住んでいたらいつか父親が危害を加える可能性があるんだ。だから美央を危険に晒すことはできない」



両親とはあまりうまく行っていないのか両親な事を口にするたびにトゲがある気がした。




「それはもう変えられないのか?」



「……無理かも。確証があるわけじゃないけど、あいつらが許すはずがない」



こいつは美央の為に自分の気持ちを押し殺す選択をしたんだな……



せっかく話してくれたが俺は何の役にも立てそうにない。ただできることがあるなら四季の意見を尊重する事。



「わかった。この事は美央には言わない方がいいんだろ?」



やつの気持ちになった時、好きな人に変に気を遣われたりするのは誰もが避けたい事だろう。



「ありがとう……」



俺が多分気の利いたことをしたのだろう。だからか最後は悲しそうに表情を崩し月を見上げていた。