私たちの恋風は、春を告げる



一瞬、何が起きたのか分からなくて、私は自分の足元を見る。

床には砕けたマグカップと、一面に広がるココア。

「何してんだよ。ケガとかやけど、してないか?」

「………」

血相を変えて飛んできた冬紀に目もくれず、ただ茫然と立ち尽くす私。

「………咲茉?」

ゆっくりと、視線を自分の手元に向ける。

右手にはしっかりマグカップが握られているけど、左手に持とうとしたカップはするりと指を抜けて、床に落ちた。

何も持っていない左手を広げる。