「紗季は、ずっと、苦しんでた。____僕を助けてくれた時から、ずっと。」




「っ…ぇ?」




沈黙が続き、私は焦って口を開くけれど、喉がぎゅうっと締められて何も言えなくなる。









「…紗季は、僕を助けてくれてたけど、紗季にも仕打ちがかかってた。

でも、紗季のことだから僕のほうが酷いことされてるって言って耐えていてくれただろうね。きっと。」





彼は困ったように微笑む。




……そんなことはない。私は、迅のことを思うどころか、恨んでいた。


そんな当時の__今も続く汚い考えを彼の真っ直ぐな瞳の前で言える訳もなく、俯いて拳を握りしめる。





ふと、迅が目を伏せて、吐き捨てるように呟く。



「でも、僕は自分がされていることより、紗季が苦しんでる姿を見ることのほうが、ずっと辛かった。」




「っ…そんな、苦しんでないよ。」




私は締め付けられるように痛い喉で、なんとか答えた。





迅は少し困ったように眉を下げたあと、私の頬に触れる。




「紗季が毎日、俯いて学校に来てたことも、ふとした時に顔を歪めてたのも…………今でもその傷が残ってることも、僕は全部知ってる。」




迅は、今までで一番苦しそうな表情をしていた。





かつて嫌がらせを受けていた頃よりも、ずっと。



「紗季。」


迅が私の名前を呼ぶ。




「紗季、助けてくれてありがとう。紗季のこと、傷つけてごめん。」







迅は何も悪くない。




何も悪くないのに、謝らせてしまう自分が不甲斐なかった。





「紗季の笑顔が見たくて、いつもこうやって適当な場所につれてきてたんだ。自分が奪った 紗季の笑顔を取り戻すことが、僕の最大限の償いだから。」





「っ…迅が、奪ったわけじゃない。

…迅はなにも悪くない。

自分が悪いなんて、そんなこと思わなくていい。」



それでも迅は、目を伏せて俯いている。