「……って、帰ってこないし」
時計を見ると11時半、あと30分で終わっちゃうのに…。
蓮がいるとあれだけうるさいこの部屋も、今は無駄に広く感じる。
今までもあったじゃんか。
蓮は社長で、財閥の代表で、忙しいことなんかわかってるのに。
なんか今日は、すごく寂しい。
…ああ、しんどいな。
「…蓮の嘘つき」
あ、やばい。涙出そう。
(ガチャ)
なんでだろう。
なんで蓮はいつも、
「……ハァハァ、みゆ、」
私がしんどい時、わかってたようなタイミングで
決まって現れるんだろう。
走ってきたのか息を荒げて、私を見る蓮。
その顔を見るだけで、帰りが遅かったことなんて全部どうでもよくなって、自然と涙が出てくる。
涙を隠すように、テーブルに突っ伏す。
「ごめん、遅くなった」
「………」
「みゆ?こっち向いてくれないの?」
「…やだ」
こんな顔、見せたくない。
(ペロッ)
「…ひゃっ!何してんの!」
耳…舐められた…。
「やっとこっち見た」
ああ、やっぱ蓮には勝てない。
「泣いてたの」
そう言って、私の頬を手で拭う。
「……うそつき」
「ごめん、」
「…もう終わっちゃうじゃん、記念日」
時計を見ると、12時まであと10分。
「じゃあこの10分、俺にちょうだい?」

