「まだ怒ってるんですか?」
「やだ」
…拗ねてる。
駿君と別れてからずっとこの調子で私に背を向けて話を聞いてくれない。
正直レアで少し可愛い。
「れ、ん!」
先を行く主人の腕を掴んで私の方を向かせる。
「こっち見て」
私を見る主人の顔は、口を尖らせて分かりやすく機嫌が悪い顔をしていた。
「約束ってなに。ありがとうってなに。俺がいない間あいつと何話してたの。」
「蓮がいない間、駿くんが蓮を変えられるのは私しかいないから蓮の事大事にするって約束したの!」
「え?」
「ありがとうって言ったのは、私に蓮をよろしくって言ってくれたのが嬉しくて言っただけ!これでわかった?」
「……はぁ、」
主人は一息つくと、私の肩に顔を埋めた。
「…なんか、俺すげーだせえ…。」
ふっ、と笑う主人の頭に私の手を乗せる。
「妬いて、周り見えなくなって何言われるか怖くて話聞かねーでさ。ごめん、みゆ」
「…かわいい」
つい出てしまったその言葉に顔を上げた主人は、私の頭をわしゃわしゃ撫で回す。
「…みゆのばか」
和解した後、手を繋いで夜の海に向かう。
人がほぼいない海岸に並んで座る。
「機嫌いいな」
「うん、初めて蓮が嫉妬してくれたんだもん」
「初めてじゃないけど」
「え?」
「しょっちゅうしてる、嫉妬。」
突然の主人のその言葉に、面食らう。
え、だって今までそんな素振り見せなかったのに、
「だ、だれに?」
「南雲とか蒼司兄さんにもしたなこの前。あとみゆの隣の席の男、あいつ絶対みゆのこと狙ってるから今度しめとかねーと。あ、今日の昼食べたとこの店員もみゆのことずっと見てたからすげーむかついた。」
「え、え、」
マシンガンのように出てきた嫉妬の数々に頭がついていかない。
…主人も、嫉妬するんだ。
「なに?俺も嫉妬するんだ、って顔だね」
「…だ、だって、そんなこと一回も言われた事ないし…」
「…そりゃ、かっこつけたいじゃん」
妬いてるとこなんてかっこ悪くて見せたくねーもん、と私の肩を抱いて自分の方に引き寄せた。
「なんだ、私だけかと思った、」
「ふっ、みゆよく妬いてるもんなー」
「…れ、蓮がモテるからでしょ!」
「んー、みゆちゃんに妬いてほしいからね」
「…駿くんのとこ行こ」
「あーごめんごめん、うそうそ」
笑いながら私をなだめるけど、絶対反省してない。
この前だって、わざわざ私に見えるところに移動して告白されてたし。
その私の反応を見るのが楽しいらしい。
ほんっと、悪趣味。
でも…
「今日まじでムカついた。」
私の手に自分の手を重ねる。
「駿のやつ、ずっと無駄に近かったし、名前で呼ばれてんのも嫌だった。みゆが駿くん、て呼んでんのも。」
「ちょ、蓮?」
「俺重いのかな」
蓮はまっすぐな目で私を見る。
「なあ、みゆ」
「…ん?」
「俺と駿どっちが好き?」
やばい…
かわいい。

