「で、なんでお前もいんだよ」
「えーいいじゃん、久しぶりなんだし。ね、みゆちゃん」
「え、?はい!」
「みゆ、嫌なら嫌って言っていいんだからな!てかお前みゆのこと名前で呼ぶな、腹立つ」
「えーじゃあなんて呼ぶの?可愛い子ちゃんとか?」
「お前まじ死にてーの?」
流れで、海の近くのお洒落なレストランに来た。
駿くんは、主人の昔からの友達で、彼も全国で有名なホテル関連の会社の御曹司らしい。
昨日泊まったホテルも駿くんの家のホテルで、
あんな豪華なホテルを予約なしで入れたからおかしいと思ってたけど、どうやら主人は駿くんに連絡しておいたらしい。納得。
それにしても、主人がこんなに誰かと仲良くしてるのを初めて見た。
学校でも、あまり誰かと一緒にいるのを見ないし。
友達といると、こんな感じなんだ…
「ふふ、」
「みゆ?どうしたの?」
「いや、2人すごく仲良いんだなって思って。」
「別に仲良くは…
「超仲良いよ!」
2人の声がハモって、また言い合ってる。
「みゆちゃんがいなかった時は、俺が蓮の1番だったんだよ?ね、蓮」
「ちげーし!1番ってなんだよ!きもちわりーな!」
「またまた、暇さえあれば俺と遊んでたくせに」
「…まあ、こいつとは適当な付き合いだし、気遣わなくていいし、馬鹿だし…」
「おいおい、ひでーな!」
こんなことを言いながらも、笑い合ってるのを見ると、主人はかなり駿くんに心を開いてるんだろうと思う。
"プルルルル"
「出ないの?」
「……ッ、」
そんな時、主人のスマホからコール音が鳴り響く。
「蓮、俺のことなら気にしないで出てきなよ」
「お前がいるから出たくねーんだろ…みゆ、駿から何かされたらすぐ叫べよ、飛んでくるから」
「うん!早く行ってきて!」
「もー、信用ないなあ」
「……ちょっと出てくる」
不安そうに目配せしながら、席を立つ主人。
駿くんを見ると、ニコニコしながら同じくこっちを見ていた。
「ねえ、どうやって蓮落としたの?」
「…え?」
「いや、単純に不思議で聞いてるんだけどさ。あの蓮をあそこまで夢中にさせるなんて、みゆちゃんって何者なの?」
「何者…と、言われましても」
くりくりな目を更に丸くして、真面目な顔で聞いてくる駿くん。
「…あの、そんなに珍しいんですか?私と会う前だって、蓮モテたんじゃ…」
「んー、そりゃあの顔だからモテてたけど、蓮が女に本気になるなんてありえなかったんだよ。実際本人も、恋愛なんか絶対しないってずっと言ってたし。」
そっか、出会った頃の蓮がそうだった。
"愛とか恋なんか信じない"
まあ、私もそうだったけど。
「そもそも、蓮がここまで"人"に執着するってゆうのが初めてなんじゃないかな。」
「…そっか、」
「付き合い長い俺にでさえ心開いてくれない時あるのに、蓮にあそこまでさせるみゆちゃんって自分が思ってる以上に、すごいと思うよ」
なんか、すごく、体がゾワゾワってして、
全身で、蓮が好きって言ってるみたいだ。
「だから、蓮のこと大事にしてあげて」
優しい目。
駿くんも、蓮のことを大事に思ってるんだ。
「はい、もちろん」
駿くんは、私を見てふっと笑う。
「でも」
駿くんの手が私の頭に乗っかる。
主人のと同じぐらいの、大きい手。
「蓮に飽きたらいつでも俺のとこおいで」
「……え、」
「駿お前まじで…」
「あ、意外と早かったね」
息を切らした主人が駿くんの腕を掴む。
さっきもこんなシチュエーションあったなそういえば。
「みゆ、もうこいつとは一生関わらないで頼むから」
「わー、束縛彼氏こわーい」
言い合いながらも、主人の表情はどことなく落ち着いてるように見える。
信頼しきってるんだろうな。
店を出ると、もうあたりは暗くて涼しい風が吹いていた。
「じゃ、俺行くわ〜、女の子待たせてるから」
「駿」
「んー?」
「また来るから、メシ行こうぜ」
主人のその言葉に駿くんは目をまん丸にする。
「なに、どうしたの、そんなこと言うキャラだっけ?」
「別に、一応友達だし。一応な。」
「ふは、」
「何笑ってんだよ」
いきなり笑い出した駿くん。
やっぱり、ちょっと謎な人だな。
「やっぱすげえわ、みゆちゃん」
「え?」
「なんでみゆが出てくんだよ」
駿君は、私の方へ距離を詰めて耳元で囁く。
「蓮変えれるのみゆちゃんしかいないから。さっき言った事、忘れないでね。」
"だから、蓮のこと大事にしてあげて"
たぶん、この事だ。
「ちけーよ離れろ!」
「ごめんごめん、最後にみゆちゃんと約束することあってさ」
「は?」
「蓮、絶対また遊びにきてよ」
駿くんはヒラヒラと手を振りながら私たちと距離を取る。
「あの駿くん!」
「んー?」
「ありがとう!!」
駿くんは、返事をするようにニコッと笑った。
「あ、蓮!次みゆちゃんも絶対連れてきてね〜」
「ぜってー1人で来る…」

