「…来てしまった。」
オフィス街にある1番大きいビル。
ここに来るのは2回目だけど、変に緊張してしまう。
よし、堂々と行け。
フロントの受付には綺麗なお姉さんが2人いた。
「あ、あの…東雲蓮さんに会いに来たんですけど…」
「副社長ですね。アポは取っていらっしゃいますか?」
「え、アポ?」
取ってないけども!?
やばい、これアポないと入れない感じ?
前は近くにたまたま秘書さんがいたからラッキーで入れたけど…
「申し訳ございませんが、約束をされてない場合はこちらでお通しすることが出来かねるのですが…」
焦る私に淡々と続ける受付のお姉さん。
これ、わたし、副社長の彼女ですって言っても信じてもらえるのか…
ど、どうしよう…。
「あ、もしかしてみゆ様でいらっしゃいますか!?」
その時、おじさんが救世主のようにどこからか走ってきた。
「あ、はい。そうですけど」
「担当が大変失礼致しました。今すぐご案内させて頂きますのでご容赦くださいませ」
ポカンとしている受付のお姉さんに、おじさんが「副社長の恋人の月宮みゆ様だ」と小声で呟くと、
「「大変失礼いたしましたっ!!!」」
その瞬間、全員がそう言って頭を下げた。
「え、ちょ、いや頭上げてください!大丈夫なので!!」
何これすごく恥ずかしい。
めちゃくちゃ周りから見られてるし!
「副社長の大切な方なのにも関わらずとんだ無礼を…。後でこの担当には相応の処分を…」
偉い立場と思われるおじさんは、釘を刺すように一言残す。
いや、やめてあげて!?
相応の処分って、クビにでもされそうじゃんこの感じ!
お姉さんすっごい涙目だし!
「いや、ほんとに大丈夫なので、私も悪かったってゆうか、なんかすみません…」
お姉さんがクビにされないよう、主人の部屋に向かう途中、おじさんに必死なフォローを入れる。
そんな中、いつの間にか主人の部屋についていた。
"副社長室"と表札が貼られてある。
ああ、なんか久しぶりすぎて緊張するな。
"コンコン"
ノックをすると「どうぞ」と主人のいつもの低めの声が聞こえる。
少し胸がキュッとなった。
「失礼します」
ゆっくり扉を開けると、机でパソコンをいじっていた主人が私の方を見る。
驚いたように切長の綺麗な目をまん丸にさせた。
「え、みゆ?」
その言葉と同時に立ち上がった主人は私の方に歩いてくる。
綺麗に着こなされたスーツ姿は、どうみても高校生には見えない。
「お、お久しぶりです」
私の目の前に立つと、じっと見つめて私を抱きしめた。
「…ほんとにみゆ?」
「ほんとにって、偽物がいるんですか…?」
「いや、疲れて幻覚見えてんのかと思った」
私はぎゅっ、と抱きしめ返す。
久しぶりの主人の胸の中は、相変わらず暖かい。
「どうしたの?今日」
「……ああ、これ渡そうと思って」
「なにこれ?」
一回体を離して、持ってきた袋を渡す。
「…お弁当、作ったから。どうぞ」
「え、まじで?」
お手伝いさんと手分けして、いやぶっちゃけほぼお手伝いさんが作ったお弁当。
どうせ主人のことだから、仕事に集中してろくなもの食べてないんだろうと思って、持ってきた。
「んー、いい匂い。ありがとみゆ」
頭をぽんぽん、と軽く触る主人。
その手に自分の手を重ねた。
「…これは言い訳で、ほんとは会いたくて来ました」
主人は、ふ、と息を吐くように笑うとまた私を抱き寄せる。
「俺も、会いたかったよ死ぬほど」
なんなんだ。
じゃあなんで…
「何で急に仕事ばっかり……」
心配にならないって言ったら嘘になる。
もっと、会いたいのに。
「ごめん、今は詳しいことは言えないけどケリをつけようと思ってる」
「……ケリ?」
「うん、全部終わったら絶対言うから、それまで待っててほしい」
今は言えないこと…。
なんだろう。気になるけどこれ以上聞くのをやめた。
「…だからって1回ぐらい会ってくれても…」
「あー、それはみゆに会ったら仕事したくなくなるからできるだけ会わないようにしてた」
ごめんね、と私のおでこに1つキスを落とす。
「はぁ、なにそれ!私てっきり飽きられたのかな、とか嫌われたかも、とか1人で……」
「そんなわけないじゃん、でも不安にさせたね」
私の好きな大きな手で、頭を撫でる。
「俺、みゆが思ってる以上にみゆのこと好きだよ」
ああ、私がどんな気持ちで…
怒りたいのに、許してしまう…。
「……むかつく」
「嫌いになった?」
「……嫌いになんかなれないからムカつく」
「こっち向いて」顔を隠すように俯いていた私の顎を指で上を向かせる。
合った目線から目を背けてしまいそうだった。
切長の目も、高い鼻も、形のいい唇も、小さい顔も、ああ、全てが好きだ。

