恋と首輪


「とりあえず放課後、教室に迎え行くね」
昼休みが終わるチャイムが鳴って、主人はそう言って何事もなく教室に戻る。

頭の中はまだどこかふわふわしてて、午後の授業なんて集中できるはずもなく、
迎えた放課後。

「みゆー、帰ろ!」
何事もないように爽やかな顔で現れた主人を、周りが放っておくはずもなく…

「え、蓮様じゃん、なんでここにいんの」
「今みゆって言った?え、月宮みゆって首輪外されたんじゃないの?」

うん、パニックになるのも無理はない。
周りの視線を一気に受けながら、主人のもとへ向かう。

「あの、蓮様!首輪制度ってなくなったんじゃないんですか?!」
そんな中、主人に唯一声をかけた女の子がいた。
きっとみんなが気になってるその質問。

「うん、なくしたよ」
「じゃ、じゃあ、なんでこの子と一緒に帰るなんて、」

女の子の視線が私に移る。
主人は、少し笑って私の手を引いた。

「だって俺の彼女だもん」
その瞬間、周りが悲鳴に包まれる。特に女子。

ああ、視線痛い。逃げたい。
「俺の彼女」
このフレーズは死ぬほど嬉しいけど、これ私荷が重すぎない?

「あ、そうだ。この際だから言っとくけど、首輪じゃなくなったからといえ、俺の子に手出したら許さないから」

"シーーン"
空気が張り詰めるのが私にもわかる。

確実に主人の殺気はパワーアップしてる。

「行こ、みゆ」
「え、ちょ、」
手を引っ張られた私は主人とそのまま教室を出た。

「れ、んさま?」
「ん?なーに?」
「今日、車じゃないんですか?」
いつも高級外車が外に待ってるのに、今日はそれがいない。

「んー、呼んでない。みゆ送って帰ろうと思って」
「え?私別に一人で帰れ……まっ…」
言葉を遮るように、私の唇に長い人差し指を押し付ける主人。
そして私の顔を覗き込むようにかがむ。

「ねえ、俺ら付き合ってるんでしょ?」
「……」
私はゆっくり頭を縦に振る。

「じゃあ黙って送られてよ、ね?」
「……ハイ……」

「いい子いい子」
とんとん、と頭をぽんぽんしてまた歩き出す。

……なに今の……。
彼氏の主人、甘すぎない?

「蓮様のそれって、もともとですか?」
「ん?それって?」
「…なんか、その…Sっぽい感じ、」
主人は、一度こっちを向いた後、息を吐き出すように笑う。

「んー、どうだろ。人によるかな。好きな子にはSになるのかも」
「……ッ、」
「今まで考えたことなかったなー」
頭をかきながら、考えるそぶりを見せる主人の横で、"好きな子"ってワードが頭から離れない。私って、こんな単純だったっけ。

「なんで?嫌?」
「…いや、嫌ってわけじゃ…」
「じゃあ好きなんだ」

「嫌い、じゃないです…」
「あ、またそれ」と私を見ながら笑う主人に思わず目を背ける。

「好き、っては言ってくれないんだもんな~」

私だって…
ここで素直に好き、って言えれば可愛げあるのはわかってるのに。
自分が嫌になる。

「まあそうゆうとこがみゆっぽくて可愛いんだけどね」
でも主人のためなら、少しずつでも
素直になりたい、と思った。

「あ、家ここです、」
「へえ、ここなんだ。大きいね」
「いや、蓮様の家に比べたら全然」
「そうかな、一緒ぐらいでしょ」
もうお別れか。一人の時は長い道のりなのに、
今日は、一瞬だった。

「じゃあ、また明日ね。みゆ」
「…蓮様」
私は咄嗟に主人の袖を掴む。
「どうしたの?」
びっくりしたのか、目を見開く主人。

「…あ、あの…蓮様の、Sなとことか、でもほんとは優しいとことか…
ほんとは全部……好きです…これからよろしくお願いします」
私は恥ずかしすぎて蓮様の目を見れなかった。

「…じゃあ、また明日」
一方的にそう言って逃げるように、家に入る。
気持ち伝わっただろうか。

ああ、素直って難しい
家に入って30分間、私は玄関にうずくまっていた。

「いや、あれ反則だろ……」
主人もまた、私の家の前でそれ以上に照れていたのだった。