「ねえ!今日蓮様学校来てたよ!!」
「え、超久しぶりじゃない!?」
「1ヶ月以上来てなかったもんね」
「月宮みゆとの喧嘩説まじかな?」
「えー、まじなんじゃない?月宮も休む日増えてたし」
「でも首輪外されてないじゃん」
「今日外されたりして…」
「ふはっ、それ最高!次私がいいなあ…」
あ、主人登校したんだ、よかった。
にしても、噂話で主人のことを知るなんて…
こんなのが首輪でいいのかな、
しかも周りの噂話も少し的を得てる。
喧嘩ではないけど、少しぎくしゃくしたのは事実だし、
あんなことをしてしまった以上、
今日首輪を外されてもおかしくない。
ああ、馬鹿なことした。
まず、なんで私は主人を抱きしめたんだろう。
なんで自分からキスしたんだろう。
なんで自分から…
ああ…、恥ずかしすぎて死にたい。
あれじゃ私完全に変態じゃん…
しかもこんなの、私が主人のこと…
「ああっ!!」
だめだ、頭パンクする。
頭冷やそ。私は、周りの視線と噂話でむさくるしい教室を後にした。
「おい、月宮!どこ行くんだ!今から授業だぞ!」
「サボります」
「ちょ、おい…!早く戻ってこいよ!」
こんなことまで許されちゃうから首輪は便利だ。
主人パワーはやっぱりすごい。
今日屋上空いてるかな、
(ガチャッ)
お、ラッキー。空いてる。
何か特別でもない、普通の学校の屋上。
ここが結構好きだったりする。
「ああ、もう……」
外に出てみても、やっぱり頭には主人のことで、
…狂いそう。
こんなに主人に会うのが憂鬱な日は、初めてだ。
今日呼び出しないといいな。なんて考えていた時、
滅多に人の来ない屋上の扉が開いた。
「れ、ん様?」
「悪いね。サボりなんて」
ふっ、と笑いながらこっちへ近づいてくる相変わらず綺麗な顔は、主人に違いない。
……終わった。
「久しぶり、みゆ」
「……お、…お久しぶりです、」
「いつぶりだっけ?あ、あの日俺の部屋が最後か!」
「……ッ……////」
満面の笑みで、あの日のことを煽ってくる主人はやっぱり意地が悪い、と思う。
「ふはっ、顔赤くなっちゃって、かわい。」
「…ッ……それより、体はもう大丈夫なんですか?」
「うん!この通り!あの日、みゆちゃんが来て治してくれたおかげで!」
元気元気、と腕をブンブン回しながら、また煽ってくる。
あの日の主人は、あんなに弱くて素直だったのに…
もうあんなの見れないだろうな…残念…
「…もうその話やめてもらっていいですか…//、」
「ふはっ、ごめんごめん。冗談だよ」
でもその反面、いつもの主人に戻ってよかったって思いもある。
主人が通常運転じゃないと、やっぱり心配になるから。
「何でここがわかったんですか?」
「廊下からたまたま見えた。」
「…ああ。…あの、蓮様」
「んー?」
「…もう、怒ってないですか?」
今主人が私をみる目は、全てを打ち明けたあの日の、
冷え切った目じゃなくて、いつもの柔らかい目。
「怒ってたらここに来ると思う?」
「……じゃあ、…」
「言ったでしょ?今のみゆと向き合うって。」
少し心が軽くなったような気がした。
主人を騙して、近づいて、最低なことをした私にとって、
主人のその言葉は、一番嬉しかった。
計画の時からある程度覚悟はしてたけど、主人を傷つけた罪悪感は予想以上で…
矛盾してるかもしれないけど、すごく苦しかったから。
「まあ、俺も俺でみゆ使って首輪という名のゲームしようとしてたことに変わりないし、悪いのはおあいこってことで」
主人の大きな手が、私の頭をなでる。ああ、温かい。
「まーたその顔する」
「…へ?」
「今にも泣きそうな、壊れちゃいそうな顔」
こないだもしてた、と笑みを浮かべる主人。
どんな顔だろう、
主人には私がどう見えてるのだろうか。
そんなこと今まで考えもしなかったのに
急に、気になった。
「正直その顔すっげーそそるんだよね」
「…は!?」
「なんかね、めちゃくちゃにしたくなる」
……ッ…、言葉にならない声が出て固まる。
そして主人は、追い討ちをかけるように耳元で囁く。
かかる息が、くすぐったい。
「この前みたいに」
ふわっと香る主人の匂いと、吐息と、その言葉が、
嫌でもあの日を思い出させた。
…主人と、一緒になったあの日。
「…たのしいですか、」
「え?」
「そうやって、私からかってたのしいですか…っ」
顔の熱さから、私の顔が今どんななのかなんて
見なくてもわかる。顔を隠すように主人の肩に顔を押し付けた。
主人は少し笑ってそのまま私を抱きしめる。
「うん、最高だよ」
こんのドS野郎め、と思いながらも主人が笑ってるのが
ちょっと嬉しい私はもしかしてMなんだろうか。
「みゆさ、変わったよね」
「…どこが、ですか?」
「前は何するにもずっと同じ表情だったのに、今は顔がコロコロ変わる」
「…そう、かな…」
「見ててすげー楽しいし、今の方が可愛いよ」
素でこんなことを言えてしまう主人は相当タチが悪い。
主人の顔が、見れない。
ああ、もうこんなのもう否定できないじゃんか。
言い訳できないじゃんか。
私、たぶんもう相当
主人が好きだ。

