恋と首輪


(パチパチパチパチ)

演奏が終わり、明るくなった照明と、
私に向けられた歓声にホッとする。

とりあえずなんとか乗り切った。

一礼して、ステージを降りると、
口が開いたまま、間抜けな顔をした主人と目が合った。
綺麗な顔がもったいない。

そしてその隣にいる、何とも気に入らなそうな顔をしてるお嬢様とも。

「下手な演奏をお見せしてしまい、すみません。一般人なので、これぐらいでお許しいただければ幸いです。」
「いや、君の演奏は素晴らしかったよ。」
さっき、私を馬鹿にしてた彼女の父親も、手のひらを返したように、私に接する。
お嬢様は、それが気に入らないのか、顔をしかめて、その場を去った。

「素晴らしい演奏をありがとう。蓮君、今後も宜しく頼むよ。」
「はい、こちらこそ。」

彼女の父親も、主人と握手を交わした後、彼女を追いかけるように、立ち去る。
あんまり出しゃばりすぎたかな…

でも、馬鹿にされたままってゆうのも悔しかったし。
あの状況で、主人に恥をかかせない選択は、きっとこれしかなかったはず。

「みゆ、ちょっと来て。」
考え込む私を覗き込むように見た主人は、私の手を引いて、その場を後にした。

「あのさ、聞きたいことが山ほどあるんだけど」

手を引いて連れてこられたのは、ホテルの一角にある、テラスのようなところ。
噴水がライトアップされてて、とても綺麗だ。

その噴水を背にして、私を見てそう言う主人の綺麗な顔。
主人が聞きたいことは、だいたいわかる。

「バイオリン、ですか?」
「…うん、」
「小さい頃にお母さんに教えてもらったんです。」
「…それだけ?」
「はい、それからバイオリンが好きになって、今でもたまに弾いてます。」
「そっか…」

主人は、何の言葉もなく、ただ私を見つめる。
その沈黙を破ったのも、主人だった。

「俺初めて感動したんだ、人の演奏を聴いて。」
「……え?」
「すごく綺麗だった。バイオリンの音も、みゆも。」

そう柔らかく笑う主人にこそ、"綺麗"という言葉は、似合う。
私なんかじゃなくて。

主人の大きい手が私の頭にポン、と乗っかる。

「もっと知りたくなったよ、俺が知らないみゆを」

主人は知ったらどうゆう反応をするだろうか。
"綺麗" とは程遠い、
本当の私を。