部屋を出て、パーティー会場に向かうと、
もう人がたくさん集まっていた。
「…うわ…、」
広い部屋、ピカピカの装飾、たくさんの人に思わず後退りしてしまう。
……絶対私、場違いだ。
不審に周りをキョロキョロする私に、主人は、少し笑った。
「絶対俺から離れちゃだめだよ」
「はい…」
そう言ったそばから、主人は、いる人全員に挨拶の嵐。
年配の人からも、若い人からも声をかけられる主人は、相当顔が広いんだろう。
いや、これも東雲財閥の御曹司の仕事なのか。
私は、後ろでただ微笑むだけ。
……私こんなんで、大丈夫なのかな。
「綺麗なお嬢さんですな、恋人かな?」
いかにも着飾っている偉そうなおじさんが、私を舐めるように見つめる。
「あ、いえ。僕の付き人です」
「へえ。でももったいないなあ、ただの付き人なんて。」
そしておじさんは、私の腕をガシッと掴んだ。
「暇な時、僕の会社に遊びにおいでよ。」
「あはは……」
必死に、笑顔を作るけど気持ち悪くて、顔に出そう。
その時、主人の手が私からおじさんを引き離した。
「彼女は、僕の付き人なので。」
低い声でそう言った主人にビビったのかおじさんは私からすぐに離れる。
「はは、そんな怖い顔しなくても、冗談だよ!じゃ蓮君、お父さんによろしく伝えてて!」
笑いながら、おじさんは去って行った。
「チッ、あの変態じじい」
小声で、そう言った主人に少し笑ってしまった。
「…蓮様、ありがとうございました」
「みゆ、大丈夫だった?」
心配そうに、私を見る主人に大きく首を縦に振る。
主人はおじさんに触られた私の腕をさする。
「もう俺から離れるな」
「……はい、」
いつもより強い言い方に少しドキッとしてしまった。
「蓮さん?」
その時、真っ赤なドレスを身をまとった女の人が、主人に声をかけた。
うわ、こんな綺麗な人初めて見た…私は、その女の人に釘付けになる。
「お久しぶりです、麗奈さん。お誕生日、おめでとうございます。」
「まあ、嬉しい。まさか蓮さんに来ていただけるなんて。お父様、蓮さんが来てくださったわ。」
「蓮君、来てくれてありがとう。」
「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。」
ああ、この方がこのパーティーの主催者なんだ。
西園寺財閥って言ったら私でも聞いたことがある有名な財閥。
そこの御令嬢が、この綺麗な人なんだ。
綺麗な彼女のお父様と呼ばれた男性は、若すぎて20代ぐらいにしか見えない。
主人もそうだけど、財閥の人たちって綺麗な人しかいないのかな。
話し込んでる3人の間に私が入れるはずもなく、
周りの美味しそうな料理に、思わず目がくらんでた時だった。
「そちらの女性は、蓮さんの恋人ですか?」
……またこの質問。
ここに入って30回は言われた気がする。
「いえ、彼女は僕の付き人です」
綺麗な彼女と目を合わせると、明らかに私を睨んでる。
あーあ。綺麗な顔が台無しだ。
きっと、主人のことが好きなんだろう。
「蓮さんの付き人ってことは、あなたも相当なお家柄なんでしょうね」
「あ、いえ、私は…」
「彼女は、学校の友人なのでこっちの世界では…」
「あら、一般の方なんですか?」
「…は、はい。」
そりゃこの人から見たら、大抵が一般人だろうけど。
それにしても、お嬢様ってやっぱり苦手だ。
人をバカにするようなその目。
主人とは、つり合わないと言われなくても顔にそう書いてある。
「麗奈お嬢様、今から予定してたバイオリン演奏なんですが、演奏者が急に倒れてしまって。いかがなさいましょうか。」
急に血相を変えて走ってきたスタッフらしき人が、性悪お嬢様にそう言った。
「あら、大変。誰か代わりに……あ、そうだ。丁度いい。あなたやってみない?」
「……え…?」
聞き間違いかと思った。
でも、性悪お嬢様の目線はしっかり私に向いている。
「…私、ですか?」
「あの、麗奈さん。彼女は、ごく普通の家ですので…」
「あら。でも一般の方でも、蓮さんの付き人なら、これぐらい出来て当然じゃありません?ねえ、お父様。」
「ああ、そうだな。」
主人を見ると、明らかに顔が硬ってる。
絶対怒ってるな。
私をバカにしたような目で見てくるこの親子に。
きっとここで、私が出来ずに失敗して、
恥をかくところが見たいんだろう。
「……ふっ、」
「…あなた今、笑いましたの?」
ここで主人に、恥をかかせるわけにはいかない。
最善を尽くすしかない。
やってやろーじゃん。主人のために。
「私がやります」

