「やっぱスーツは動きにくいな」
「蓮様、周りの目もありますので」
肩を回して気だるげにそう言った俺を南雲が止める。
「はいはい、わかってます」
ここでは東雲財閥の御曹司、東雲蓮。
俺の行動一つが東雲財閥の印象につながる。
幼い頃から嫌というほど教えられてきた。
俺は、背筋を伸ばし、表向きの顔に切り替える。
「蓮様、今日もお美しいです。」
真面目な顔でそういう南雲に思わず笑ってしまった。
この男は、本心で言ってるから怖い。
「そんなもん女に言えっつーの。俺みゆ迎えにいってくるから」
「それは私が、」
「いやいい、俺が行く」
被せてそう言った俺に南雲は少し笑った。
「なんだよ」
「いえ、いってらっしゃいませ」
俺は、いつもと様子がおかしい南雲を背にみゆがいる部屋に足を進める。
「……は、?……」
扉を開けた瞬間、振り向いた彼女の姿を見て俺は見事に固まった。
「…れ、ん…様?」
少し、照れたように俺の名前を呼ぶ彼女は、綺麗としか言いようがない。
さっきとは、別人のようだ。
体のラインが出た青いドレスはみゆの細い体と、白い肌に映えていて、
いつもと違うみゆの綺麗な顔を直視できない。
「…きゃっ、ちょ、」
俺は、目の前にいる彼女を抱きしめた。
スタイリストの、2人がニコニコしながら部屋を出て行く。
「ほんとに、みゆは俺を驚かせることばっかりするね」
「…え、?」
いつも期待を裏切らない。
本当に飽きないよ。
「綺麗だよ、みゆ」

