翌朝。悠斗はいつものように自転車を走らせ、学校へ向かう。
遠くに見える錬の背中を見つけると、自然とペダルを漕ぐスピードが上がった。
校門が開くちょうど7時、悠斗は自転車を降りて駐輪場に向かった。見慣れた背中を追いかけるように足を進めると、錬が部室の鍵を手に振り返る。
「おはよう、錬。」
「おう、おはよ!」
錬の元気な声に、廊下の静けさが一瞬破られる。二人は短い挨拶を交わし、そのまま部室へ向かった。
錬が部室のドアを開けると、2人は並んで部室に入った。悠斗は無言でトランペットケースを取り出し、椅子に腰掛けてロングトーンの練習を始めた。一方の錬は、いつものように体を動かすことから始めている。
「今日も腹筋からか。」
悠斗が笑い混じりに言うと、錬はタオルで汗を拭いながら肩をすくめた。
「体が資本だからな。お前も少しはやってみろよ。」
「俺には向かないよ。」
悠斗は苦笑しつつ応えたが、その視線は錬の動きに一瞬だけ留まる。
体育会系のノリが強い錬は、軽い準備運動の後に腹筋を始め、リズミカルに体を上下させている。その姿は、悠斗にはどこか眩しかった。
(楽器の演奏には腹筋が重要だっていうのはわかる。でも、そこまでしなくても吹奏楽には十分だろう…。)
悠斗は内心そう考えながらも、その意見を口にはしなかった。錬の努力を否定するように受け取られたくなかったし、彼の一途さに対する敬意も抱いていた。
「まあ、俺は俺のやり方で頑張るさ。」
悠斗は軽く笑いながら、再びトランペットを構える。目の前の楽譜に集中し、丁寧に音を紡いでいく。
錬は腹筋を終えると、トロンボーンケースを手に取った。
「好きにすればいいけどさ、体力つけて損はないぞ。」
「その通りだな。」
悠斗は答えながら、少し腹筋を意識して息を入れている自分に気づいた。
やがて廊下の奥から、にぎやかな声が聞こえ始めた。
「おはようございます!」
2年生のパーカッション・佐藤が顔を覗かせ、笑いながら手を振る。その後ろから、クラリネットを手にした1年生の女子部員が小走りで駆け込んでくる。
「おはようございます!」
部室の空気が少しずつ活気を帯びていくのがわかった。
悠斗はトランペットを手に持ち、錬に目を向ける。目が合った瞬間、自然と口を開いた。
「そろそろ合わせてみようか。」
「よし、やろう。」
錬が頷き、二人は部室の広いスペースに移動した。それぞれの楽器を構え、肩を軽く回して息を整える。
ディズニーメドレーの掛け合い部分―デキシーランドジャズ風にアレンジされたその箇所は、トランペットの軽快なメロディとトロンボーンの深みのある響きが絡み合う見せ場だ。演奏が成功すれば、聴く者を一気に引き込める。
「じゃあ、3、2、1…。」
悠斗がカウントを取ると、軽やかなトランペットの音が部室に響き渡った。明るく弾むメロディに応えるように、錬のトロンボーンが厚みのある音を重ねていく。二人の音色は、まるで会話をするかのように絡み合い、部室の空間を一気にジャズの世界へと変えていく。
「もっとリズム感を出そう。」
錬がスライドを滑らせながら呟くと、悠斗は小さく頷き、もう一度トランペットを構えた。
音の掛け合いが繰り返されるたびに、二人の演奏は一体感を増していく。悠斗のトランペットは一層の華やかさを、錬のトロンボーンはさらに重厚な存在感を帯びていく。
気づけば、周囲の部員たちがそれぞれの練習を止め、二人の掛け合いに見入っていた。誰かが息を呑む音が聞こえる中、一人が感嘆の声を上げた。
「めっちゃいい感じじゃないですか!」
悠斗と錬は視線を交わし、思わず笑みを浮かべた。
「まだまだだよ。放課後にもっと詰めて仕上げよう。」
悠斗が言うと、錬もにやりと笑いながら頷いた。
「そうだな。次たは完璧にしようぜ。」
二人は楽器を片付け、部室を出る準備を始めた。軽く手を振り合い、それぞれのクラスに向かって廊下を歩いていった。
遠くに見える錬の背中を見つけると、自然とペダルを漕ぐスピードが上がった。
校門が開くちょうど7時、悠斗は自転車を降りて駐輪場に向かった。見慣れた背中を追いかけるように足を進めると、錬が部室の鍵を手に振り返る。
「おはよう、錬。」
「おう、おはよ!」
錬の元気な声に、廊下の静けさが一瞬破られる。二人は短い挨拶を交わし、そのまま部室へ向かった。
錬が部室のドアを開けると、2人は並んで部室に入った。悠斗は無言でトランペットケースを取り出し、椅子に腰掛けてロングトーンの練習を始めた。一方の錬は、いつものように体を動かすことから始めている。
「今日も腹筋からか。」
悠斗が笑い混じりに言うと、錬はタオルで汗を拭いながら肩をすくめた。
「体が資本だからな。お前も少しはやってみろよ。」
「俺には向かないよ。」
悠斗は苦笑しつつ応えたが、その視線は錬の動きに一瞬だけ留まる。
体育会系のノリが強い錬は、軽い準備運動の後に腹筋を始め、リズミカルに体を上下させている。その姿は、悠斗にはどこか眩しかった。
(楽器の演奏には腹筋が重要だっていうのはわかる。でも、そこまでしなくても吹奏楽には十分だろう…。)
悠斗は内心そう考えながらも、その意見を口にはしなかった。錬の努力を否定するように受け取られたくなかったし、彼の一途さに対する敬意も抱いていた。
「まあ、俺は俺のやり方で頑張るさ。」
悠斗は軽く笑いながら、再びトランペットを構える。目の前の楽譜に集中し、丁寧に音を紡いでいく。
錬は腹筋を終えると、トロンボーンケースを手に取った。
「好きにすればいいけどさ、体力つけて損はないぞ。」
「その通りだな。」
悠斗は答えながら、少し腹筋を意識して息を入れている自分に気づいた。
やがて廊下の奥から、にぎやかな声が聞こえ始めた。
「おはようございます!」
2年生のパーカッション・佐藤が顔を覗かせ、笑いながら手を振る。その後ろから、クラリネットを手にした1年生の女子部員が小走りで駆け込んでくる。
「おはようございます!」
部室の空気が少しずつ活気を帯びていくのがわかった。
悠斗はトランペットを手に持ち、錬に目を向ける。目が合った瞬間、自然と口を開いた。
「そろそろ合わせてみようか。」
「よし、やろう。」
錬が頷き、二人は部室の広いスペースに移動した。それぞれの楽器を構え、肩を軽く回して息を整える。
ディズニーメドレーの掛け合い部分―デキシーランドジャズ風にアレンジされたその箇所は、トランペットの軽快なメロディとトロンボーンの深みのある響きが絡み合う見せ場だ。演奏が成功すれば、聴く者を一気に引き込める。
「じゃあ、3、2、1…。」
悠斗がカウントを取ると、軽やかなトランペットの音が部室に響き渡った。明るく弾むメロディに応えるように、錬のトロンボーンが厚みのある音を重ねていく。二人の音色は、まるで会話をするかのように絡み合い、部室の空間を一気にジャズの世界へと変えていく。
「もっとリズム感を出そう。」
錬がスライドを滑らせながら呟くと、悠斗は小さく頷き、もう一度トランペットを構えた。
音の掛け合いが繰り返されるたびに、二人の演奏は一体感を増していく。悠斗のトランペットは一層の華やかさを、錬のトロンボーンはさらに重厚な存在感を帯びていく。
気づけば、周囲の部員たちがそれぞれの練習を止め、二人の掛け合いに見入っていた。誰かが息を呑む音が聞こえる中、一人が感嘆の声を上げた。
「めっちゃいい感じじゃないですか!」
悠斗と錬は視線を交わし、思わず笑みを浮かべた。
「まだまだだよ。放課後にもっと詰めて仕上げよう。」
悠斗が言うと、錬もにやりと笑いながら頷いた。
「そうだな。次たは完璧にしようぜ。」
二人は楽器を片付け、部室を出る準備を始めた。軽く手を振り合い、それぞれのクラスに向かって廊下を歩いていった。



