乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます





 あれこれと試し、どうしても眠れないナズナさんに
 最後の手段とゲンナイさんが持ってきたのは、医務室にあったというキトワさんお手製の睡眠薬。

 嫌がるナズナさんに問答無用でそれを飲ませ、気絶するようにゴンッと一瞬で床に倒れたナズナさんが眠ったのを確認してから
 私は再び目を瞑り、羊ならぬツジノカさんを数えだす。
 シュールな想像にも二回目となると、もはや慣れたものだ…。

 さきほどと同じようなふわふわの空間にて、ツジノカさんと共にナズナさんの夢の入り口にたどり着いたものの
 その扉を開く事はできなかったらしい…。
 仕方がない。と諦めて眠りから覚めた私はジトリと目を細めてナズナさんに理由を聞いてみる


「なんで入口開けてくれないんですか?」
「は?しるか。俺はなにもしてねーよ」


 チッと大きく舌打ちして、あくびするナズナさんにムッとする
 おかしい。ナズナさんもサダネさんとハートの数は変わらないはずなのに…
 どうしてうまくいかなかったんだろう


「一度にこれだけ夢を繋ぐと、さすがに疲れた。すまないが、俺は休む…」


 どこかぐったりとしているツジノカさんをゲンナイさんが別室へ案内しに行って、応接室には私とサダネさんとナズナさんだけになる


「困りましたね。由羅さん、その作戦というのは異物を除去が前提なんですよね」
「はい…。」
「別にいいだろ。異物があろうがなかろうが、やる事は変わらねぇ。要はお前がリブロジと話してーから、その間異形を近寄らせるな。ってことだろ?」
「まぁ、簡単にいうとそうですね。でもそれをするにも異物はとっておかないと…」
「だからその異物ってなんなんだよ」


 異物があったら万が一があった時、消滅のリスクがあるんですよ!と声高々に叫べたら、と私は少し遠い目をする…。
 だけど私の頭で、世界の歪みやら共鳴やらを隠して説明する力があるとは思えず、ぐっと唇をかむ
 そもそも異物があると教えてしまったのもだいぶグレーだ。ゲンナイさんがいいように解釈してくれていなかったら完全にアウトだっただろう…
 でもそのゲンナイさんがいない今、私が説明するしかないのだけどできる気がしない

 「おい由羅聞いてんのか?」とナズナさんの綺麗な顔が詰め寄ってきて、私は思わず後ずさった

 あ〜、相変わらず綺麗な顔だな。まさに絶世の美女……。なんて、明後日の方向へと逃避しようとする思考をなんとか踏み止まらせ、考える

 困ったな。どうやって誤魔化そう…。

 そもそも何故ナズナさんの中に入れなかったのだろう…
 ナズナさん本人もわからないと言うことは、無意識の領域…その根底に、なにか原因があるはずだ…

 単純にハートが減ってしまったとか
 アネモネさんが目覚めていないせいだとか

 理由はいくつか思いつく。

 …なんにしても、塊を除去できないとなると手を考えなければいけない


「…時にナズナさん、異形のことどう思ってますか?」
「あ?なんだそのくだらねー質問」
「いいから答えてください」
「…殺してやりたいね。いつだって」
「なるほど。」


 ……無理だなこれ。万が一が十分にありうる。
 ナズナさんにはその性格や因縁から、異形を殺しうる可能性が充分にありすぎる。逆に今まで我慢できていたことが奇跡だ…。でも…そうなると、やっぱり……


「ナズナさんは留守番です」
「あ゛あ?」


 断言した私にナズナさんのどすのきいた声が反応する。どんな迫力でもこればかりは無理だ…。

 ナズナさんを置いて、サダネさんとゲンナイさん二人だけをつれていくしか…。いやでも、さすがに二人だけっていうのもキツそうだから、ナズナさんの代わりに一緒にいってくれそうで、共鳴できそうな人、ついでに追跡向きの能力の人は…キトワさんか、トビさんあたりだろうか・・・?

 うーん…。と考えていれば、突然ガシリと私の頭がわしづかみにされ、グインと顔を無理やり動かされた

 真横を向かされた目の前に、不機嫌全開のナズナさんの顔が見える


「お前ごとき守るのに、俺様は異物ありでも充分だ!!」


 交代なんて絶対認めない!と顔に書いてあるナズナさんに、私はパチパチと目を瞬くと
 小さくため息をはいた


「じゃあナズナさん、ひとつだけ。絶対に深追いしないと誓ってください」
「わかってるにきまってんだろ」


 …怪しいから言ってるんですよ





ーーー





 異形の巣を探す調査に出てから何日か過ぎ、4番目に訪れたそこで、ゲンナイさんの嗅覚にリブロジさんの匂いが引っかかった

 森の入り口で馬から降りた私たちは
 ここから慎重に歩を進める

 やっと痕跡を見つけた…!
 どうかここが、映像でみたあの場所でありますように…


「…予想通りというか、異形の気配だらけですね」
「物音から察すると、ざっと5,6匹はいるな」
「ひえ…そ、そんなに…」
「安心しろ由羅ちゃん。なにがなんでも守るからな」


 「なんとかリブロジだけをさらうことができればいいんですが…」と辺りに視線を走らせるサダネさんが何かを見つけたのか「伏せてください」と私の体をひっぱる

 「うっ」と小さく呻き声があがる。気がつけば、地面に伏せるサダネさんの下で体全体を覆うように守られていた。身動きができないほど密着するサダネさんが心臓に悪い


「さ、サダネさ」
「静かに。異形です…」
「あれは猿の異形だ。気をつけろ、素早いぞ」


 小声で警戒する三人が睨むそこへ視線を向ける。そこにはとても猿には見えない。腕は四本ありしっぽも太く長い。体の大きさも異常なほど大きいそのバケモノが、こちらに近づいてきていた。
 三人が各々武器を構える音がする。私もゆっくりと小刀を手に取った


「ゲギャェアアア!!」


 異形がついに私達に気付いたのか、けたたましい叫び声をあげ襲ってきた。瞬間、サダネさんに後ろへと押される
 ドサリとしりもちをついた時には、もう戦いが始まっていた。


「っ、絶対に、こ、殺したらダメです!!」


 特にナズナさんっ!と、気付けば叫んでいた。心臓がドクドクと恐怖と不安に加速していく


「わかってっから由羅はもっとひっこめ!」


 ナズナさんに叱られ、素直に数歩下がった
 四本の腕と両足、それにしっぽを器用に使いこなし、襲ってくる猿の異形は中々に手こずる相手らしい。


「追い払うのもできそうにないな…。仲間を呼ばれるのが関の山だ」
「ナズナさんのムチと俺の糸で、なんとか捕縛できないか試しましょう」


 三人が必死に応戦しているときだった。
 誰もいないはずの背後に、何かの気配がして、私は反射的にふりむく

 そこには、ゆらゆらとゆれる水面のような壁があった…。


「え、なにこれ…」

「っ!まずい!由羅ちゃんそれに触れるな!」
「リブロジの結界です!!」
「離れろバカ女っ!!」


 え?とゲンナイさん達の言葉を理解するより早く、ドプン。と私はその壁の中に入ってしまっていた


「なにしに来たのじゃ、殺されにか?」

「っ、リブロジさん…!」


 そこには不思議そうにこちらをみる
 リブロジさんが立っていた