「リブロジさんに会いたいんです。」
「「はあ!?」」
ナズナさんゲンナイさんを応接室に呼び、今後の私の目的を告げれば、揃って二人は顔を顰めた
サダネさんに告げた時も面食らった顔をしていたけれど、二人はそれ以上に顔を顰めているな…。
「正気か由羅ちゃん、先日君は奴に首を切り落とされそうになったんだぞ」
「このバカ女が何を言い出すかと思えば、んなもん却下に決まってんだろ!」
ふ、予想通りの反応だ。と小さく笑う。
言われるであろう事も心配されるであろう事も、私はもちろん分かった上で言っている。
どれだけ迷惑をかけるのかは想像できないけれど、私の考えうる今やるべき最善はこれしかない。
「何を言われても私はもう覚悟を決めています。なので前に目星がついていると言っていた、異形の巣がある場所の地図を見せてください」
時成さんが見せてくれたあの映像の場所にきっとリブロジさんはいるのだろう。目星のどれかに、その場所があるといいのだけど…
サダネさんが地図を出してきて「おい本気かよ」とまだ納得のいっていないナズナさんをゲンナイさんが宥めた
「由羅ちゃんの覚悟はわかった。話を進める前にひとつだけ聞きたい」
「なんですか」
「“絶対に無茶はしない”と約束できるか?」
真剣な目をして聞いてきたゲンナイさんに私は黙る
気持ちは痛いほどわかるし、私もできるなら守りたいのだけど、こればかりはどうしようもない
「時成さんは私を守るために、らしくない無茶をしてくれたんです」
だからごめんなさいゲンナイさん。どうかわかってください
じっと見つめる私にゲンナイさんは小さく息をはく
「わかった。それならこちらにもやり方がある」
「はい。俺たちはただ全力で由羅さんを守るだけです。」
「本気かよ…はぁ。わかったよ。その無茶ごと守りゃいいんだろ」
小さく笑ったサダネさんとやれやれと肩を竦めるナズナさんに私はふわりと笑みが零れた
「ありがとうございます」
無茶でもしないときっとあの人は帰ってこれない
時成さんがしてくれたほどの無茶でなければ報いる事などできはしない
広げた地図にいくつか示されている点を指でなぞっていく
時成さんが見せてきた映像は森としか分からなかった。これは目星の場所全部をひとつひとつ調べる必要がある…
「皆さんはリブロジさんについてどこまで知っているんですか?」
もしかしたらなにかヒントになるかもと聞いた質問に、三人は揃って言い淀んだ
「どこまでもなにも」
「名前と異形側の人間ってことだけだな」
「何度か目撃情報はありましたが俺もこの目で見たのは昨日が始めてです」
「へ?…つ、つまり何もわかってないんですか…?」
「力になれなくて悪いな由羅ちゃん」
「人間なのに異形側に居る事も理解できねーし。何故由羅を狙ったのかもわからねーな」
「滅多に姿を現さないのに、わざわざ予告しここに襲来するのも奇妙です」
確かに、危険なのにわざわざ予告してきたのは私にも分からないけど…。リブロジさんが襲ってきた理由としては、私が犬神を消滅させる原因を作ったからだろう…
ゲンナイさんの中にあった犬神の塊を消滅させたから…、これ以上それをさせないために、私を殺しにきたんだろうことは分かる
幼いころに洗脳され誘拐されたリブロジさんにとって異形は家族同然なのかもしれない
なんとか話しをして洗脳をときたいけど…。と考えたところで、あ。と私は思い出した。
それよりも前にやらなきゃいけない事があるのを忘れていた…
バッと勢いよくゲンナイさんへと顔を向ける
ゲンナイさんは共鳴を達成済みだからその中にもう異形の塊はない。
つまり巣に行って異形と戦闘になっても、ゲンナイさん自身が消滅する心配はない
だからといって異形がたくさんいるかもしれない巣にゲンナイさんとだけ行けば、消滅以前に普通に危険なので論外。つまり人手がいる
リブロジさんを探す目的のためにも視力と聴力に長けているサダネさんとナズナさんは必須だ
そのためにもまずは二人の中にある異形の塊も取り除いて、戦闘になった時の消滅のリスクは除いておきたい。
塊を壊すための共鳴に必要なハートはたぶん、溜まっているように思うのだけど…
二人といま、共鳴することはできるのだろうか…
「サダネさんナズナさん。ちょっと試してもいいですか?」
きょとんとする二人に向き合う。
えっと。ゲンナイさんの時はどうしたんだっけ?確かゲンナイさんの過去を見てて、そこで塊の中に落ちていきそうなゲンナイさんをひっぱろうとして…いつのまにか共鳴してたから…
前提としてはまず二人の中に入らないといけない……って、それどうやるの?
「なんだよ、なにかすんじゃねーの?」
汗をだらだらと流す私にナズナさんが怪訝な視線を向ける
ちょっとまずいのでは?やっぱり時成さんがいないと無理があるかもしれない
“共鳴”って一体どうするの…?二人の中に入る方法とは…?
「ち、ちなみにゲンナイさんって瘴気に侵されて私が浄化した時のことなにか覚えてますか?」
「ん?そうだな…曖昧な部分もあるが、なんとなくは覚えてるよ。由羅ちゃんに救われた」
「…ぐ、具体的に私どうやって救ったんですか?」
「あー、…なるほど。由羅ちゃんのしたい事はなんとなくわかった。この二人にも俺と同じように“救わなきゃいけない何か”があるってことか?」
さすがゲンナイさんである。察しが良すぎて少し恐怖を覚えるほどだ。私はコクリと頷いた。
「どうやら由羅ちゃんは俺たちの知らない何かを知っているようだけど、それは聞かない方がいいんだろうな」
「で、できればそうしていただけると…」
「了解。要は、俺の時と同じような方法でこの二人を救いたいってことだろ?まずそれができなきゃ今回の作戦は始まらないと」
「そ、そうです」
「一体なんの話ですか?」
「救うってなんだよ」
「リブロジの話を思い出せ二人とも、奴の“叫び”で動きを止められた時、俺を見ながら奴は言ったーー」
『ほう、かの者はすでに消えている故どうかと思うたが、塊はなくとも記憶はあるということかの?結構じゃ』
「奴の言う俺から“すでに消えている塊”に俺は覚えがある…。異形と初めて相対した時からずっと、胸の奥に感じていたなにかのことだと」
「「……。」」
「そしてそれは由羅ちゃんによって解放され、俺は救われた。だから俺は犬神を滅することができたんだ。…つまりお前たち二人の中にもなにか塊のような“異物”があって由羅ちゃんはそれを壊しておきたいらしい」
サダネさんとナズナさんの視線がこちらに向き、私はへらりと曖昧に笑ってみせる
これってセーフ?アウト?ゲンナイさんの理解度が怖い。
どこまで話していいのか境界線がわかりません助けて時成さん…!
狂人だと思われないだろうかとビクビクしていれば、ゲンナイさんが席を立ち、事務室の電話を手にとった
「おそらく、これはツジノカさんの専門だな」
