時成さんが戻ってこれるようになんとかしてやる!と、意気込んでみたのはいいけれど…
実際のところ何をどうすればいいのかわからない…
あれから丸1日と経ち、窓から朝日が差し込む自室で
机の上に広げた時成さんからの手紙を、私はじっと見つめていた
時成さんがおそらく私に何かしてほしい事があるのだろう事と…
それがリブロジさん関係だという事も、過去の映像を見せてきたことからわかるのだけど…
結局なにをすれば、時成さんは戻ってこれるのか…
一番に思い浮かぶのはリブロジさんのハートを増やすことだ。
…だけどそれってものすごく難易度高いのでは?
先日殺されかけた相手の好感度をあげるなんて、そんな方法皆無なのでは?
でもだからこそ時成さんは、最後の気力を振り絞ってリブロジさんの過去を私に見せたのだろう……。おそらくアレが、リブロジさんのハートを増やすヒントだ…。
それを頼りにリブロジさんを攻略する事が私がすべき事……
時成さんの手紙にある『最善だと思う事を為せばいい』という文字を指でなぞる
私の頭で思いつく、今やるべき“最善”の方法はこれしかないのだけど
合ってますか?時成さん…
せめて答えあわせくらいしてくださいよ
ぐすっとまた出そうになった涙と鼻水を思い切り吸い込む
めそめそしていても仕方ない
いま私にできることを整理し実行に移さなけれな現状はなにも変わらない
自分を諭すように言い聞かせ、私は目を瞑り考える。
リブロジさんという異形側にいる人を攻略するのは生半可なままでは無理だ。
その為に今私にできる事を整理しておくべきだけど…改めて考えてみれば、私にできる事は、ものすごく少ない…。
一番に思いつく武器と呼べるものは浄化の力だけど…。それも最初にナズナさんの腕の瘴気が自力で成し遂げられた限界で…。もっとひどかったゲンナイさんの浄化は実力不足のせいで時成さんの指を犠牲にした。
アネモネさんの瘴気に至っては、時成さんがいないとその瘴気を見ることも、触れることすらできない…。
もともとがただの社畜OLだったので、もちろん皆のように異形と戦闘なんてできるわけないし…。身体能力が優れているわけでもない…。
あれ?待って。私とんでもないポンコツなのでは?
時成さんがいないと何もできなくないですか?
そんな私に一体どうやってリブロジさんのハートを増やす手段があるのか…と頭を抱えた時、トントンと部屋の戸がノックされる
反射的に返事をすれば、戸が開きサダネさんが入ってきた
「由羅さん。時成様の事ですが…」
「…はい」
「具合はどうなんでしょうか。療養先からいつ戻られるかは聞いていますか?」
ドキリと跳ねた心臓のせいでまっすぐ見てくるサダネさんの視線から目を逸らす
「わかりません…」
すみません。と俯き謝れば、サダネさんは椅子に座る私と視線を合わせるように少し屈むと、俯く私の両頬を手で優しく包み込み顔をあげさせた
「由羅さん。時成様がいなくなってから貴女が何か悩んでいると俺の目には見えています」
「…。」
少しだけ苦しそうな顔で憂いを帯びたそのサダネさんの瞳に申し訳なくなる。
本当に駄目だな私は、皆に心配と迷惑ばかりかけている気がする…この世界にきてから感情のコントロールも下手になるばかりで。虚勢を張ることすらできなくなっている
「すみません。ちょっと…悩み事というか」
「俺でよければ、聞かせてください」
「…その…。自分の、ポンコツ具合に嫌気がさしてて…」
「ポンコツ…?」
「実は、時成さんに自分が思う最善をしろと言われてるんですが、浄化の力も鍛錬が足りなくて使えないし、異形と戦えるわけでもないし、私にできる事なんて、なにもない気がして…。」
そのうえ異形に狙われているから皆に守ってもらってしまっているし…。余計な心配や仕事を増やしてしまっている…。こんなものもはやポンコツ役立たずどころか疫病神ではないだろうか…。
「…時成様は、その人の本質を見極める力が大変長けた人です。その時成様が由羅さんの最善と思う事をしろとおっしゃったのなら。由羅さんの思うままのしたい事でいいと思いますよ。」
「…でも、私の思う最善が、合っているのかもわからなくて…」
だいたい時成さんは私をアホだと思っているし…否定するつもりもないから、自分の考えに自信がもてない
「由羅さん、あなたに何もないことはありません。浄化の力でも戦闘の力でもない、あなたにしかないものがあります。そして俺たちは、皆それに救われている」
「私にしか、ないものですか…?」
「甘えてもいいと俺に言ってくれたでしょう?」
小さく笑い小首を傾げるサダネさんにいつかの時を思い出す。それは初めてサダネさんが心のうちを教えてくれた時、確かに甘えてほしいと私は言った
それからだいぶサダネさんも素を出せるようになってきて嬉しく思っていたけれどーー
「俺も、由羅さんに甘えてほしいんです。」
--こんな甘え上手になるとは思わなかった。頬を優しく撫でられ、甘い声で囁くようにおねだりされればもはや何も抗う事などできはしない。いつからこんな手練れになったんですかサダネさんっ…!
ポカンとする私の頬から手を離し、サダネさんは一歩下がると、見た事がない優しい笑みを浮かべ私を見つめた…
「由羅さん、今あなたがしたいことを教えてください」
窓から差し込む日の光が、その透き通るような灰色髪にキラキラと反射しどこか幻想的だ。
非現実的なその姿に、おもわず恍惚と見入ってしまう…。
王道王子様イケメンの称号に恥じぬイケメンっぷり…この人のイケメンは半端ない。非の打ち所がない王道のイケメンがいかにして王道と呼ばれているのか納得せざるを得ないほどサダネさんは王道のイケメンだ…。ぼんやりその背景に白い花が咲き誇っているようにも見える。ゲームなら確実にスチルの1枚だろう…。まずい。自分でも何を言っているのかわからなくなってきた…。
「・・・行きたい場所なら、あります。サダネさん、手伝ってくれますか?」
遠慮気味に聞けばサダネさんは小さくフッと笑みをこぼして、なにを今更と言いたげな顔をすると「当たり前でしょう」と椅子に座る私の前に膝をつきその手をとった
「このサダネに、由羅さんの望みを叶えさせてください」
言葉と共に手の甲にキスを落とされ、そのままサダネさんの切れ長で美しい目が私を見上げる
もはや顔が真っ赤になっているのはいつからかなんてわからないけど
早鐘のようにドクドクと鳴る心臓の音を聞きながら、じっと見上げてくるイケメンに私はコクコクと頷くことしかできなかった
やっぱりサダネさんのイケメン力は半端ない…。というかこれ、サダネさんのハート、もしかして増えてませんか?え、一体いつのまに!?
時成さぁーん!ハートの進捗だけでも交信で教えてくださーーい!と私は心の中で必死に叫んだ
サダネさんにまで本気だされたら、ちょっと心臓もたないかもしれない…