息苦しいほどの殺気を浴びせられ
恐怖に噴き出した冷や汗がポタリと落ちた。
まずい。早く助けを呼ばないと!このままじゃ殺される…!
いや、でもおかしい…。いまこの本部にはゲンナイさんもナズナさんもいる…嗅覚や聴覚ですぐにでも異変に気付いて、助けにきてくれてもいいはずなのに…
それが来ないってことは…皆にも何か起きているのかもしれない…
最悪の場合、自分で身を守らなければ…と、奥歯を噛み締める。
リブロジさんは膝の上の猫をなでながら私を睨みつづけている。
あの猫も一体なんなのか…一見普通の猫に見えるのに、もしかしてあれも異形なのだろうか…
「時成と名乗るまがい者から聞いておろう。異形と縁を持つ人間とその関係を。お互いでしか殺すことは叶わず、しかしどちらかが死ねば片方も死ぬ運命にある…。なのに、貴様が犬神の塊を持つ器である人間を解放してしまったが故に、犬神の魂は完全に滅してしまった。あれはもう二度と戻らぬ。どうしてくれる」
殺意の目で射抜かれ、奥歯が震える。
きっとゲンナイさんの中にあった塊を、共鳴で消した事を言っているのだろうけど…。今更そんな事を言われても私にはどうしようもない…
「そ、そもそも!い、異形が人を襲うから、人間もなんとかしようとしてるんですよ!な、何故、人を襲うんですか…!」
精一杯で出した声は情けなく震えていた。
助けはまだ誰もくる気配がない…。やっぱり何かあったのか…いよいよ命の危機を感じる…なんとか時間を稼がないと…
「誰が誰を襲う理由などわかりきっておろう。食であったり利であったりそれは欲望を糧としておる。この世の理じゃ」
「じゃあ…人を襲うことで異形達には、貴方には、どんな目的につながるんですか」
「目的か。簡単に言えば、“我が主を復活させるため”かの」
「主の復活…?」
上にまだ誰かいるということ?ボスはリブロジさんなんじゃないの?
「主には、本来の体も魂もない。故に人の魂はそれを保つのに必要な犠牲であった。じゃが10年前、それをする必要もなくなる人物が現れた。貴様もよう知っておろう?その魂の一部が貴様の中にあるのじゃからの」
時成さんの…ことだろうか…?わからない。どうしてその主の復活のために、時成さんが必要なの?
一体どういうことなのか、と問うために開けた口は、静かに立ち上がったリブロジさんのせいで声を発する事はできなかった…
キシリと床音を鳴らしながら、リブロジさんがこちらに近付いてくる
「主の為じゃ、これ以上異形を消されてもかなわん。今日は貴様の魂ごとすべて、もらいにきた」
すっとリブロジさんの手に持たれたのはとても鋭利な大きな鎌で、まるで死神にでも遭遇したかのような戰慄を覚えた時
リブロジさんの視線が私の首へと定まり、大鎌が大きく振りかぶられる
(っ時成さん・・・!!)
ギュッと固く目を閉じた時だったーー
「由羅さんっ!!」
ーーガシャン!!と部屋の戸を破壊して入ってきたサダネさんは、そのままリブロジさんに鉄棒武器を振り下ろし、迎え撃ったリブロジさんの鎌とガキィィンとぶつかり、火花を散らした
……まさに、間一髪だった。少しでも遅ければ私の首は飛んでいただろう事実にゾッとする
「悪いな由羅ちゃん結界を壊すのに手こずった」
「ゲンナイさん!え?結界?」
「音も聞こえなかったから中の様子わかんなかったが、どうやらまだ無事でよかったな」
ハンと笑ったナズナさんはサダネさんに加勢するため走り、ゲンナイさんが守壁になるように私の前に一歩と踏み出した時、その奥で見えたのは
あの猫が、戦うリブロジさんの肩にぴょんと飛び乗る光景だった
「異形の器ごときがぞろぞろとよくも…。」
苛立っているのか、わなわなと震えたリブロジさんはキッと顔を上げ叫んだ
「邪魔をするな貴様ら!身をわきまえよ!!」
その瞬間、リブロジさんから風圧のようなものを感じびりびりと肌がしびれるような感覚がした。まるで瘴気に触れた時のような息苦しさに襲われるも、それは一瞬のことで
次いではリブロジさんが対峙していたはずのサダネさんとナズナさんの間をいとも悠々と通り過ぎている光景に私は目を丸くする
二人は通り過ぎるリブロジさんにまったく動こうとしない…
(ちがう、動けないんだ…!)
さっきのリブロジさんの“叫び”のせいなのか…
サダネさんも、ナズナさんも、そしてゲンナイさんも…しびれているかのように小刻みに震え、体が固まってしまっている
そう理解した時にはもう、私の目の前にはリブロジさんが立っていた
「ほう、かの者はすでに消えている故どうかと思うたが、塊はもうなくとも記憶はあるということかの?結構じゃ」
「っぐ…」
ゲンナイさんを見て面白そうに目を細めたあと、リブロジさんは、私を静かに見下ろした
「不甲斐ないのう」
わざとらしく片眉をあげ、再びの恐怖に身動きのできない私の首へ、その鎌をあてがう
「ぐ、ち、くしょ…!」
「ゆ、ら…」
「ぅう・・・!」
三人が動かないその体で、視線だけをこちらに向けているのがわかる…
あぁ、今度こそもう無理そうだ。
ピリっとした痛みが走り、私の首へと、僅かに鎌が食い込んだのがわかる
「安心せよ。貴様の魂は主の者になる」
にやりと笑ったリブロジさんが、その鎌を持つ手に力を込めたその瞬間ーー
ーー『キィィィン』と甲高い音と共に、その手にあったはずの鎌が弾き飛ばされていた
「なんじゃ…!?」
手から飛んで行った鎌の行先を探すリブロジさんの奥
壊れた部屋の戸の上に、ものすごく顔色の悪そうな時成さんの姿が見えた
サダネさん達の体の硬直も解けたのか、三人は素早くリブロジさんを包囲するも、鎌を掴んだリブロジさんは大きく舌打ちをして窓から飛び、逃げて行ってしまった
「町から追い出しなさい。」
「「「はっ!」」」
時成さんの指示に『ピーーーッ』と警戒笛を鳴らしながら三人も窓から後を追って行く
助かったの?と安堵する間もなく、ドサリと時成さんが膝をついたのが見えて、私は慌てて傍に駆け寄った。
「と、時成さん!?どうしたんですか?顔色死んでますよ!」
「…困ったね。今まで幾年と、こんなことはなかったのだけど…」
「え?」
「どうやら世界の理を侵しすぎたかな。」
何を言っているのかわからない…!
だけど今はなんでもいい!だって、ゲホゲホと咳をした時成さんの口から血飛沫が飛んでいる…!
「っ…時成さん!ち、血が…!」
「由羅を、助けるために、屋根裏に施していた“時間の理の変化”を使ってしまったからね。その代償だろう」
時成さんが視線を落としたその先には、ブルブルと痙攣している左手があった
おそるおそる黒革の手袋を外せば、もともと黒くなっていた二本だけではなく、中指までもが黒く侵食していた…
あまりのことに声にできず、時成さんを見れば、仕方ない事というように目を細めている
「私のせいで…」
「……ここまでくると由羅のせいではないね」
「え…?」
「由羅…ゴホッ。よく聞いて…リブロジのハートを増やすのには…」
「え、今ですかハートの話!?それよりキトワさん呼んできたほうが…血がまた…!」
「今大事だから、今話しているんだよ。由羅」
慌てる私の頬を鷲掴み、ぐいっと引き寄せた時成さんの、至近距離で見えたその目が、初めて見るのではないかというくらい真剣で、私は黙る
「言葉の説明では追いつかない。私はもう少しすれば気を失うからね。屋根裏にいる予定だから、皆には心配ないと後で伝えて。」
「…っはい。」
「では由羅、口をあけなさい」
「え、はい…?」
言われた通り、薄く唇を開ければ
なんの前置きもなく、あまりにも突然に、時成さんの唇が重なった…
「んん!?」
突然のキスに驚愕して、時成さんの体を押してもびくともしない。ひょろそうな見た目のどこにこんな力があるのか、それとも私の力が弱いのか…
なんとか離れようと暴れる私が鬱陶しいとでもいうように、背中に手を回され引き寄せられれば、体は密着し拘束され、抵抗なんてできなくなった…
何がなんだか分からず困惑していれば、ぬるっとなにかが口を割って入ってくる
(し、舌!?)
「んんん!!」
な、な、なにしてんのこの人!?
恐怖に噴き出した冷や汗がポタリと落ちた。
まずい。早く助けを呼ばないと!このままじゃ殺される…!
いや、でもおかしい…。いまこの本部にはゲンナイさんもナズナさんもいる…嗅覚や聴覚ですぐにでも異変に気付いて、助けにきてくれてもいいはずなのに…
それが来ないってことは…皆にも何か起きているのかもしれない…
最悪の場合、自分で身を守らなければ…と、奥歯を噛み締める。
リブロジさんは膝の上の猫をなでながら私を睨みつづけている。
あの猫も一体なんなのか…一見普通の猫に見えるのに、もしかしてあれも異形なのだろうか…
「時成と名乗るまがい者から聞いておろう。異形と縁を持つ人間とその関係を。お互いでしか殺すことは叶わず、しかしどちらかが死ねば片方も死ぬ運命にある…。なのに、貴様が犬神の塊を持つ器である人間を解放してしまったが故に、犬神の魂は完全に滅してしまった。あれはもう二度と戻らぬ。どうしてくれる」
殺意の目で射抜かれ、奥歯が震える。
きっとゲンナイさんの中にあった塊を、共鳴で消した事を言っているのだろうけど…。今更そんな事を言われても私にはどうしようもない…
「そ、そもそも!い、異形が人を襲うから、人間もなんとかしようとしてるんですよ!な、何故、人を襲うんですか…!」
精一杯で出した声は情けなく震えていた。
助けはまだ誰もくる気配がない…。やっぱり何かあったのか…いよいよ命の危機を感じる…なんとか時間を稼がないと…
「誰が誰を襲う理由などわかりきっておろう。食であったり利であったりそれは欲望を糧としておる。この世の理じゃ」
「じゃあ…人を襲うことで異形達には、貴方には、どんな目的につながるんですか」
「目的か。簡単に言えば、“我が主を復活させるため”かの」
「主の復活…?」
上にまだ誰かいるということ?ボスはリブロジさんなんじゃないの?
「主には、本来の体も魂もない。故に人の魂はそれを保つのに必要な犠牲であった。じゃが10年前、それをする必要もなくなる人物が現れた。貴様もよう知っておろう?その魂の一部が貴様の中にあるのじゃからの」
時成さんの…ことだろうか…?わからない。どうしてその主の復活のために、時成さんが必要なの?
一体どういうことなのか、と問うために開けた口は、静かに立ち上がったリブロジさんのせいで声を発する事はできなかった…
キシリと床音を鳴らしながら、リブロジさんがこちらに近付いてくる
「主の為じゃ、これ以上異形を消されてもかなわん。今日は貴様の魂ごとすべて、もらいにきた」
すっとリブロジさんの手に持たれたのはとても鋭利な大きな鎌で、まるで死神にでも遭遇したかのような戰慄を覚えた時
リブロジさんの視線が私の首へと定まり、大鎌が大きく振りかぶられる
(っ時成さん・・・!!)
ギュッと固く目を閉じた時だったーー
「由羅さんっ!!」
ーーガシャン!!と部屋の戸を破壊して入ってきたサダネさんは、そのままリブロジさんに鉄棒武器を振り下ろし、迎え撃ったリブロジさんの鎌とガキィィンとぶつかり、火花を散らした
……まさに、間一髪だった。少しでも遅ければ私の首は飛んでいただろう事実にゾッとする
「悪いな由羅ちゃん結界を壊すのに手こずった」
「ゲンナイさん!え?結界?」
「音も聞こえなかったから中の様子わかんなかったが、どうやらまだ無事でよかったな」
ハンと笑ったナズナさんはサダネさんに加勢するため走り、ゲンナイさんが守壁になるように私の前に一歩と踏み出した時、その奥で見えたのは
あの猫が、戦うリブロジさんの肩にぴょんと飛び乗る光景だった
「異形の器ごときがぞろぞろとよくも…。」
苛立っているのか、わなわなと震えたリブロジさんはキッと顔を上げ叫んだ
「邪魔をするな貴様ら!身をわきまえよ!!」
その瞬間、リブロジさんから風圧のようなものを感じびりびりと肌がしびれるような感覚がした。まるで瘴気に触れた時のような息苦しさに襲われるも、それは一瞬のことで
次いではリブロジさんが対峙していたはずのサダネさんとナズナさんの間をいとも悠々と通り過ぎている光景に私は目を丸くする
二人は通り過ぎるリブロジさんにまったく動こうとしない…
(ちがう、動けないんだ…!)
さっきのリブロジさんの“叫び”のせいなのか…
サダネさんも、ナズナさんも、そしてゲンナイさんも…しびれているかのように小刻みに震え、体が固まってしまっている
そう理解した時にはもう、私の目の前にはリブロジさんが立っていた
「ほう、かの者はすでに消えている故どうかと思うたが、塊はもうなくとも記憶はあるということかの?結構じゃ」
「っぐ…」
ゲンナイさんを見て面白そうに目を細めたあと、リブロジさんは、私を静かに見下ろした
「不甲斐ないのう」
わざとらしく片眉をあげ、再びの恐怖に身動きのできない私の首へ、その鎌をあてがう
「ぐ、ち、くしょ…!」
「ゆ、ら…」
「ぅう・・・!」
三人が動かないその体で、視線だけをこちらに向けているのがわかる…
あぁ、今度こそもう無理そうだ。
ピリっとした痛みが走り、私の首へと、僅かに鎌が食い込んだのがわかる
「安心せよ。貴様の魂は主の者になる」
にやりと笑ったリブロジさんが、その鎌を持つ手に力を込めたその瞬間ーー
ーー『キィィィン』と甲高い音と共に、その手にあったはずの鎌が弾き飛ばされていた
「なんじゃ…!?」
手から飛んで行った鎌の行先を探すリブロジさんの奥
壊れた部屋の戸の上に、ものすごく顔色の悪そうな時成さんの姿が見えた
サダネさん達の体の硬直も解けたのか、三人は素早くリブロジさんを包囲するも、鎌を掴んだリブロジさんは大きく舌打ちをして窓から飛び、逃げて行ってしまった
「町から追い出しなさい。」
「「「はっ!」」」
時成さんの指示に『ピーーーッ』と警戒笛を鳴らしながら三人も窓から後を追って行く
助かったの?と安堵する間もなく、ドサリと時成さんが膝をついたのが見えて、私は慌てて傍に駆け寄った。
「と、時成さん!?どうしたんですか?顔色死んでますよ!」
「…困ったね。今まで幾年と、こんなことはなかったのだけど…」
「え?」
「どうやら世界の理を侵しすぎたかな。」
何を言っているのかわからない…!
だけど今はなんでもいい!だって、ゲホゲホと咳をした時成さんの口から血飛沫が飛んでいる…!
「っ…時成さん!ち、血が…!」
「由羅を、助けるために、屋根裏に施していた“時間の理の変化”を使ってしまったからね。その代償だろう」
時成さんが視線を落としたその先には、ブルブルと痙攣している左手があった
おそるおそる黒革の手袋を外せば、もともと黒くなっていた二本だけではなく、中指までもが黒く侵食していた…
あまりのことに声にできず、時成さんを見れば、仕方ない事というように目を細めている
「私のせいで…」
「……ここまでくると由羅のせいではないね」
「え…?」
「由羅…ゴホッ。よく聞いて…リブロジのハートを増やすのには…」
「え、今ですかハートの話!?それよりキトワさん呼んできたほうが…血がまた…!」
「今大事だから、今話しているんだよ。由羅」
慌てる私の頬を鷲掴み、ぐいっと引き寄せた時成さんの、至近距離で見えたその目が、初めて見るのではないかというくらい真剣で、私は黙る
「言葉の説明では追いつかない。私はもう少しすれば気を失うからね。屋根裏にいる予定だから、皆には心配ないと後で伝えて。」
「…っはい。」
「では由羅、口をあけなさい」
「え、はい…?」
言われた通り、薄く唇を開ければ
なんの前置きもなく、あまりにも突然に、時成さんの唇が重なった…
「んん!?」
突然のキスに驚愕して、時成さんの体を押してもびくともしない。ひょろそうな見た目のどこにこんな力があるのか、それとも私の力が弱いのか…
なんとか離れようと暴れる私が鬱陶しいとでもいうように、背中に手を回され引き寄せられれば、体は密着し拘束され、抵抗なんてできなくなった…
何がなんだか分からず困惑していれば、ぬるっとなにかが口を割って入ってくる
(し、舌!?)
「んんん!!」
な、な、なにしてんのこの人!?
