「朝食でも食べに行こうか」
窓から差し込む朝日に、目を細めながら言ったその言葉が、あまりにもなんの前触れもなく突然で、私の口からは素っ頓狂な声が漏れたけど、時成さんは気にすることはなく、部屋の戸へ手をかけた。
「宿の前で待つから支度しておいで」
そう言い残し、いなくなった時成さんに言われたがまま、私はもそもそと身支度を始めた。よく分からないけど、どうやら外に食べに出るらしい。
なるべく急いで準備をして外へ出れば、そこはふわふわと雪が降りはじめていた
どうりで寒いわけだ…。と自分の白い息を見ていれば、宿の屋根下にある長椅子に腰掛けキセルをふかしている時成さんを見つける
駆け寄ればこちらに気付いた時成さんがキセルを懐にしまい立ち上がった
その顔に。にっこりと笑みを浮かべ「由羅は何が食べたいのかな?」と質問され少しだけ顔をしかめる。
なんだろうか…今日の時成さんは、妙に違和感を感じる…。はっきりしないし、やたらと私の意見を聞いてくるし、外食をしようと誘ってくるのも初めてだ…。らしくないというか、なんというか…
「温かいものが食べたいです」
とりあえず、寒くて仕方ない。と近くにあったうどん屋さんに入ると、そこは結構にぎわっていた。雪も降り寒い中、皆考えることは同じのようだ
空いているテーブル席もカウンター席も素通りした時成さんは、奥にある個室席へと迷いなく入っていき、何かこだわりでもあるのだろうかと思いながらも私もおとなしくついていく
席につき店員さんに注文を伝えた後、すぐに運ばれてきたおいしそうなうどんにお腹がなった
「時成さんきつねうどんですか?」
「うん。欲しいならあげるよ」
はい。とおあげを私のうどんの上にのせた時成さんに、いい加減違和感を感じて仕方ないので私は聞いてみる
「なんなんですかさっきから…妙に優しいというか…らしくないですよ。違和感凄いです」
鳥肌もんですよ。と怪訝に見つめれば「私はいつも優しいと思うけどね」としれっと言った時成さんに(どこがですか!?)と内心叫ぶ声が大音量だ
納得いかないものの、時成さんが一言目に答えを言わない時はもう言わないパターンだと分かっているので、小さくため息を吐いて、うどんを啜れば、時成さんも箸を動かした
なんだか新鮮だ。
時成さんも普通に飲み食いするんだな。そういえば今まで食事する姿を見たことなかったっけ…。いつも座椅子に座り胡散臭い笑みを浮かべてキセルをふかしているイメージしかないけれど…、こうしてみるとただの普通の人間に見える
猫舌なんだろうか…ふーふーとやたら冷ましている…
「時成さんっていつも食事は旅館で済ませてるんですよね?」
「そうだね。部屋に持ってきてもらう事が多いね」
「トキノワの皆と食事すればいいのに…。常に賑やかなので楽しいですよ。時々疲れるけど」
「…どうかな。食事というのは元来油断を伴う行為だからね。ひとりで済ます方が気が楽だし、誰かと共にしたいとは思わないね」
だから、真っ先に個室席を選んだのかな。食事するのを誰にも見られたくなくて…ん?でも…
「…いま私としてるじゃないですか」
「由羅ならいいんだよ」
「どういう意味ですか」
聞いたところで察していた。このパターンもわかってる。どうせまともな答えは返ってこないだろう。と私はうどんをずるずると啜る。
「由羅が私にとって特別だからだよ」
そして、時成さんの言葉に盛大にむせた。
「ッゲホ!、ケホケホ!!」
「汚いよ由羅」
うどんが飛んだ。と嫌そうな顔をする時成さんに私は慌てて聞き返す
「い、いまなんて言いました?」
「汚い」
「っその前ですよ!」と叫ぶ私に、時成さんは顔を僅かに傾けると、そっと私の頬に手を添えてきた…。
触れた手に、じわりと顔を赤くする私を見て、時成さんは薄く笑う
「二度は言わないよ。」
胡散臭い笑みとは違う、にやりと見透かすような笑みで私の頬についていたらしい食べかすを取り、ピンと指ではじく時成さんに、私は声にならない声をあげてテーブルに突っ伏した
「~~っなんですかそれ!!卑怯にもほどがありますよ!!」
そんなに人の感情を弄んで楽しいのか!と泣きべそのように叫んだ私を
時成さんはとても面白そうに眺めていた
ーーー
「それでは行こうか」
「どこにですか」
うどん屋さんを出て、雪が積もり始めた町並みを歩く時成さんに首を傾げると「アネモネの所だよ」と平然と告げられ、私は咄嗟に時成さんの腕をガシリと掴んだ
ちょっと待ってよ。
「私さっき、拒否しますって言いましたよね!」
時成さんの犠牲なんて絶対に認めません!
「…心配しなくても何もしないよ。見舞いに行くだけだからね」
それに由羅も一度くらいアネモネに会っておいた方がいいだろう。とにっこり笑う時成さんに私はゆっくりと手を放す…
それは…私だって、アネモネさんのことは一刻も早く目覚めさせてあげたい…!
ナズナさんやナス子さんアネモネさん本人のためにも
だけど時成さんの犠牲のもとでなんて、それだけはいやだ。ただでさえ、もう指2本、犠牲にしてしまっているのに…。
ぐるぐると渦巻く心情のまま時成さんについていけば大きな病院の前につく
慣れたように進む時成さんは中庭のような場所へくると、綺麗な庭園を通り奥にある金と黒の扉の建物へと近付いていく。
「キトワ、ツジノカ。おはよう」
「「おはようございます時成様」」
扉の奥へ進むと、そこにいたキトワさんとツジノカさんが時成さんにザザっと片膝をついた
いや、確かに上司と部下なのかもしれないけど…ツジノカさんって国王様ですよね?商人の時成さんに跪く違和感がすごい慣れないなんだか怖い…と恐れ多い光景に怯んでいると私の肩にポンっと手がおかれた
「おはようプリンセス由羅。昨夜はどこで寝てたんだい?」
にっこりと見てくるキトワさんから視線をそらし、私がさりげなく時成さんの後ろへ隠れ逃げたのに
壁の役目をまったくしてくれない時成さんにぐいっと背を押され、微笑むキトワさんに近付いてしまい心の中で悲鳴をあげる。
時成さんがもう優しくない!
さっきまでのらしくない優しさはどうやら期間限定のものだったらしい…。
次の開催はいつなんでしょうか…
窓から差し込む朝日に、目を細めながら言ったその言葉が、あまりにもなんの前触れもなく突然で、私の口からは素っ頓狂な声が漏れたけど、時成さんは気にすることはなく、部屋の戸へ手をかけた。
「宿の前で待つから支度しておいで」
そう言い残し、いなくなった時成さんに言われたがまま、私はもそもそと身支度を始めた。よく分からないけど、どうやら外に食べに出るらしい。
なるべく急いで準備をして外へ出れば、そこはふわふわと雪が降りはじめていた
どうりで寒いわけだ…。と自分の白い息を見ていれば、宿の屋根下にある長椅子に腰掛けキセルをふかしている時成さんを見つける
駆け寄ればこちらに気付いた時成さんがキセルを懐にしまい立ち上がった
その顔に。にっこりと笑みを浮かべ「由羅は何が食べたいのかな?」と質問され少しだけ顔をしかめる。
なんだろうか…今日の時成さんは、妙に違和感を感じる…。はっきりしないし、やたらと私の意見を聞いてくるし、外食をしようと誘ってくるのも初めてだ…。らしくないというか、なんというか…
「温かいものが食べたいです」
とりあえず、寒くて仕方ない。と近くにあったうどん屋さんに入ると、そこは結構にぎわっていた。雪も降り寒い中、皆考えることは同じのようだ
空いているテーブル席もカウンター席も素通りした時成さんは、奥にある個室席へと迷いなく入っていき、何かこだわりでもあるのだろうかと思いながらも私もおとなしくついていく
席につき店員さんに注文を伝えた後、すぐに運ばれてきたおいしそうなうどんにお腹がなった
「時成さんきつねうどんですか?」
「うん。欲しいならあげるよ」
はい。とおあげを私のうどんの上にのせた時成さんに、いい加減違和感を感じて仕方ないので私は聞いてみる
「なんなんですかさっきから…妙に優しいというか…らしくないですよ。違和感凄いです」
鳥肌もんですよ。と怪訝に見つめれば「私はいつも優しいと思うけどね」としれっと言った時成さんに(どこがですか!?)と内心叫ぶ声が大音量だ
納得いかないものの、時成さんが一言目に答えを言わない時はもう言わないパターンだと分かっているので、小さくため息を吐いて、うどんを啜れば、時成さんも箸を動かした
なんだか新鮮だ。
時成さんも普通に飲み食いするんだな。そういえば今まで食事する姿を見たことなかったっけ…。いつも座椅子に座り胡散臭い笑みを浮かべてキセルをふかしているイメージしかないけれど…、こうしてみるとただの普通の人間に見える
猫舌なんだろうか…ふーふーとやたら冷ましている…
「時成さんっていつも食事は旅館で済ませてるんですよね?」
「そうだね。部屋に持ってきてもらう事が多いね」
「トキノワの皆と食事すればいいのに…。常に賑やかなので楽しいですよ。時々疲れるけど」
「…どうかな。食事というのは元来油断を伴う行為だからね。ひとりで済ます方が気が楽だし、誰かと共にしたいとは思わないね」
だから、真っ先に個室席を選んだのかな。食事するのを誰にも見られたくなくて…ん?でも…
「…いま私としてるじゃないですか」
「由羅ならいいんだよ」
「どういう意味ですか」
聞いたところで察していた。このパターンもわかってる。どうせまともな答えは返ってこないだろう。と私はうどんをずるずると啜る。
「由羅が私にとって特別だからだよ」
そして、時成さんの言葉に盛大にむせた。
「ッゲホ!、ケホケホ!!」
「汚いよ由羅」
うどんが飛んだ。と嫌そうな顔をする時成さんに私は慌てて聞き返す
「い、いまなんて言いました?」
「汚い」
「っその前ですよ!」と叫ぶ私に、時成さんは顔を僅かに傾けると、そっと私の頬に手を添えてきた…。
触れた手に、じわりと顔を赤くする私を見て、時成さんは薄く笑う
「二度は言わないよ。」
胡散臭い笑みとは違う、にやりと見透かすような笑みで私の頬についていたらしい食べかすを取り、ピンと指ではじく時成さんに、私は声にならない声をあげてテーブルに突っ伏した
「~~っなんですかそれ!!卑怯にもほどがありますよ!!」
そんなに人の感情を弄んで楽しいのか!と泣きべそのように叫んだ私を
時成さんはとても面白そうに眺めていた
ーーー
「それでは行こうか」
「どこにですか」
うどん屋さんを出て、雪が積もり始めた町並みを歩く時成さんに首を傾げると「アネモネの所だよ」と平然と告げられ、私は咄嗟に時成さんの腕をガシリと掴んだ
ちょっと待ってよ。
「私さっき、拒否しますって言いましたよね!」
時成さんの犠牲なんて絶対に認めません!
「…心配しなくても何もしないよ。見舞いに行くだけだからね」
それに由羅も一度くらいアネモネに会っておいた方がいいだろう。とにっこり笑う時成さんに私はゆっくりと手を放す…
それは…私だって、アネモネさんのことは一刻も早く目覚めさせてあげたい…!
ナズナさんやナス子さんアネモネさん本人のためにも
だけど時成さんの犠牲のもとでなんて、それだけはいやだ。ただでさえ、もう指2本、犠牲にしてしまっているのに…。
ぐるぐると渦巻く心情のまま時成さんについていけば大きな病院の前につく
慣れたように進む時成さんは中庭のような場所へくると、綺麗な庭園を通り奥にある金と黒の扉の建物へと近付いていく。
「キトワ、ツジノカ。おはよう」
「「おはようございます時成様」」
扉の奥へ進むと、そこにいたキトワさんとツジノカさんが時成さんにザザっと片膝をついた
いや、確かに上司と部下なのかもしれないけど…ツジノカさんって国王様ですよね?商人の時成さんに跪く違和感がすごい慣れないなんだか怖い…と恐れ多い光景に怯んでいると私の肩にポンっと手がおかれた
「おはようプリンセス由羅。昨夜はどこで寝てたんだい?」
にっこりと見てくるキトワさんから視線をそらし、私がさりげなく時成さんの後ろへ隠れ逃げたのに
壁の役目をまったくしてくれない時成さんにぐいっと背を押され、微笑むキトワさんに近付いてしまい心の中で悲鳴をあげる。
時成さんがもう優しくない!
さっきまでのらしくない優しさはどうやら期間限定のものだったらしい…。
次の開催はいつなんでしょうか…
