乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます

 自室の窓から朝日が差し込み、目覚めた私はぼんやりと天井を見つめながら思う

(あぁ、明日やっと時成さんと話ができる。)

 ようやく翌日にまで迫った。あと一日待てばいいだけだ。
 明日になったら朝日が昇ると同時に時成さんの所へ駆けこんでやろう。そう決意しながら、布団から起き上がり身支度を始めた

 騒がしく鬱陶しいキトワさんの診察や、例の如く拗ねているナズナさんのガキマインドに付き合って、この二日間はだいぶ疲れたから
 今日はできれば落ち着いた日であってほしいなぁ…。という私の願望むなしくーー

 ーー戸を開けた部屋の前に、事の次第を聞きつけ心配で駆け付けてくれたらしいトビさんが、仁王立ちで待ち構えていた


「よぉ由羅!なんか大変だったらしいじゃねぇかぃ!」
「…おはようございますトビさん」
「浄化の力が強くなってるらしいな。昨日キトワが言ってたぜぃ」
「え、そうなんですか?」


 採血した私の血を持ち帰って調べると言ってはいたけど、もう結果が出たのだろうか…。それも強くなっているという事が判明したのなら、鍛錬も無駄ではなかったんだ。と私はホッと息を吐いた


「よっぽど興味深い結果だったのか、キトワのテンションおかしかったぜぃ」
「キトワさんのテンション…?」


 いつもおかしいのでは?と思ったけど、幼馴染のトビさんがおかしいというのだから、いつにもましておかしいということなのだろう。
 いつもより更におかしいキトワさんか……。…できれば会いたくないな。疲れそうだから


「で、シオもここに泊まってんだろぃ?」
「あ、はい。泊まってますよ。一階にいます」
「ツジノカのやつがシオが心配だから様子みてきてくれって昨日煩くてなぁ」
「あぁ…」


 納得。と私は頷く。トビさんに様子見を頼むほどとは…やっぱりちょっとブラコン入ってるなツジノカさん…。


「つーわけで、俺も今日ここ泊まっから。由羅の隣の部屋空いてんだろぃ?」
「え?」


 がしっと肩を組んでニコニコ笑顔で言ったトビさんに驚いていると


 「させる訳に行くかよトビさん。」とどこからか突然現れたゲンナイさんがトビさんの腕を掴みーー
 いつから目の前にいたのか「泊まるなら一階の部屋へどうぞ。シオさんの隣があいてますよ」とサダネさんが下を指差しーー
 その隣で「なんなら俺の家でもいいぜ」とナズナさんがトビさんに詰め寄りハンッと鼻で笑った。

(……。)

 いや、三人とも…。いつのまに現れたのか…え、もしかして最初からいた?全然気配感じませんでしたけど…!?

 まるで囲うようにジトリとトビさんに睨みをきかせる三人に「…おめぇら怖すぎんだろぃ。」と、ドン引きで呟いたトビさんに少しだけ同意する。
 三人とも圧がものすごい。





ーーー





「この二日間は、犬神を滅したことで予期された事柄は起こってないようですね」


 朝食後、応接室に呼ばれて何かと思えば、ここ数日の報告会なるものが開かれた
 今回の調査まとめ役であるシオ君を筆頭に、各々の調査報告が行われて、各地になんの被害も出ていないことにゲンナイさんがほっと胸をなでおろしていた


「ある程度、反応があると思ってたのにな…」
「何もないとなると逆に不気味だな」
「目撃情報は〜?」
「それもいまのところはどこにもありません」
「まぁまだ日も浅いですからね。もう少し様子を見ましょう」
「時成様の指示もねぇんじゃ下手に動かねぇ方がいいだろぃ」


 この国の地図のようなものを見ながら呟いたトビさんの言葉にピクリと反応してしまう。

(やっぱり私だけじゃなくて皆も時成さんに会う事はできてないんだな…。)

 本当に意味がわからない。一体なんのための三日間なのだろうか…

 慌ただしく仕事をしていても、賑やかな皆と過ごしていても、私の頭のどこかにはずっと時成さんの存在があった

 いくら頭の中で呼びかけても交信がくることはないし、さすがにどうしたのか。と苛立ちはだんだんと不安や心配へと変わっていく

(やっぱり共鳴したことで、光や時成さんも、なんらかの影響を受けたのだろうか…)

 そんなことをぐるぐると考えながら
 まるで何年にも感じる一日を終えて、あまり眠れない夜を過ごした




 そして朝になると、
 私は一目散に時成さんの旅館へ向かうーー


 だけど「おはようございます!」と勢いよく入った部屋には時成さんの姿はなく…
 まさか、消えてしまったのか…!と血の気がひいた私の視界に屋根裏が映る

 あそこだろうか、と急ぎ足で梯子を登り、屋根裏へと上がれば
 キセル片手にモニターを眺める時成さんを見つけて私は「はぁぁ…」と深い息をはいた。
 勘弁してくださいよ、心臓に悪い


「おはよう由羅」
「おはようございます。時成さん。三日経ったので話せますよね?というかこの三日間はなんだったんですか?なんの時間だったんですか?」


 つかつかと歩み寄りながらまくし立てる私に時成さんは胡散臭い笑みで答えた


「ちょっとね、由羅の好感度メーターのデザインを変えてみたんだよ。このハートの器を立体的なデザインにするのにてこずってね。随分時間を食ってしまった…」

「……ハ…?」

「いいデザインだろう?」
 

 動くんだよ、このハート達。とモニターを見せてきた時成さんが差すそこには
 確かにぴょこぴょこと跳ねている立体的になったハートの器があった


「…この三日間、誰とも話せなかったのは…まさか、これをしていたからなんですか…?」


 わなわなと震えながら聞いた私の問いに、時成さんは平然と頷いていて
 私は無言で座布団を時成さんに向け構えた


「おや?もしかして怒ってるのかな?」

「当たり前ですよっ!少しは、人の気持ちをっ考えてくださいっ!!」


 座布団をぎゅっと握りしめながら叫んだ私の目からは、抑えられなくなった大量の涙が溢れ出した

 時成さんは何か言うでもなく、泣く私をとても興味深そうに目を細めて見てくる

 あぁもう本当に、腹が立つ。

 こんな人に…、人の気持ちがどうとかなんて…

 はなから求めるべきではないのかもしれない