乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます

 マナカノの町につき、本部より先に寄ってもらった旅館の前まで来ると私は馬車から飛び降りた。
 靴を脱ぎ捨て、着物の裾をまくり上げ、上階にある時成さんの部屋まで全力で走る。
 正直体はまだ痛いし、重かったけど…それよりも一刻も早く、頭の中にある不吉な想像を払拭したかった


「時成さん!!」


 スパン!と障子を勢いよく開け放てば、そこには
 いつもと変わらない様子で、窓際の座椅子に座り、キセルをふかす時成さんがいてーー

 ーー力が抜けたようにへなへなと、私はその場に座り込んだ…。


「騒々しいね、由羅」


 フーッと最後に煙を吐き、キセルを座卓に置いた時成さんは立ち上がって、へたりこむ私に近付くと
 にっこりといつもの笑みを浮かべた



「おかえり」


「ぅっ…」



 なぜかドキリと跳ねた心臓を押さえ(いまのは何?)と自分の心臓を問い詰めた時、時成さんに報告するため入室してきたゲンナイさん達に私はおとなしく一歩さがる

 座椅子に座り直した時成さんの前に、姿勢よく正座するゲンナイさんとイクマ君に倣うように私も背筋をのばした

(そういえば、こういう報告の場にいるの初めてだな。)





ーーー





「--規則に背き、俺は犬神を滅しました。如何なる処分も処罰も覚悟の上です」


 報告の最後に、告げたゲンナイさんの言葉に私は思い出した
 そういえば、不殺の規則だけ設けていると時成さんが以前言っていたっけ。…でもそれは、異形を消すことで、それとつながっている人間も消滅してしまうからで…。

 今回ゲンナイさんは、つながりを絶ってから、私達を助けるために異形を滅してくれたのだから、罰を与える必要はないだろう。と、思っていたのに…

 私の予想に反して、時成さんは「そうだね」と頷くと、目を細めゲンナイさんを見下ろした


「ゲンナイ。事は軽くない」
「はい」
「よって罰は与えるよ」


 無表情で言い放った時成さんに「待ってください!」と声をあげた。  
 だって意味がわからない!納得できない!ゲンナイさんは罰を受ける必要ないじゃないですか


「由羅、口を閉じなさい。これはとても重要なことなんだよ。」

「重要…なのは、分かりますけど…」

「異形には…親玉がいて、巣も存在する。つまり個ではなく群れだ。群れというのは、一匹でも消滅させれば怒り、集団で襲ってくる可能性があるんだよ。だけど、それを迎え撃つ準備がまだ我々人間にはできていない。だから私は“時が来るまで不殺”と規則を設けた。」


 なるほど。と思わず納得してしまう。異形の塊のこともトキノワの皆に隠しているのならどういう理由をつけているのかと思えば、時成さんはひどく納得のいく理由を述べた
 “時が来るまで”というのは、異形を迎え撃つ準備…“トキノワの皆の中から異形の塊をすべて消しさるまで”のことを差しているのだろう


「異形を滅するということは、それ相応の覚悟と準備を有するものだからね。決して、個人の判断で行っていいものではない。よって、今回のゲンナイの行動も容認できることではないんだよ。」
「はい。重々承知しております」
「…で、でもゲンナイさんは、私たちを守るためだったんですよ…!」


 あの時、ゲンナイさんが犬神を倒してくれなければ、私たちが死んでいたはずだ。と必死に時成さんに訴えかける私を止めるように、ゲンナイさんの手が伸びてきた

 手の向こう側から「由羅ちゃん。いいんだ」と優しい笑みで言われれば、黙るしかなくなった私の眉間に皺が寄る…。


「罰として、ゲンナイには、自警団の業務に加えて新たな役目を与えようか」
「新たな役目、ですか?」
「今あるゲンナイのその命は由羅にもらったと言っても過言ではないからね。ゲンナイにはその命をかけて、この由羅を守ってもらう」

「「へ・・・」」

 何言ってるんだ、この男は…!
 衝撃的な時成さんの言葉に私とイクマ君が目を丸くする傍らで、ゲンナイさんは真剣に時成さんの話を聞いていた


「今回の由羅の無茶は目に余るものがあったからね。この子には子守りが必要だと判断した」
「こ。こもり…?」
「また無茶をして死なれでもしたら困るんだよ。だから、ゲンナイにはその身をもってしても由羅を必ず守るという役目を与える。」
「…元より望んだ所存にありました。その役目、この命に懸けて全う致します」
「な!ゲンナイさん何言ってんですか…!」
「うん。これ以上の問答はなし。解散」

「「はい!」」


 返事をして立ち上がったゲンナイさんとイクマ君を背中に、納得のいかない私は時成さんに抗議するため居座ろうとしたのに、時成さんから目配せを受け取ったらしい二人に、両腕を掴まれ立たされてしまう


「帰りますよ由羅さん」
「ごめんな由羅ちゃん」


 イクマ君が戸を開け、ゲンナイさんがひょいと私を横抱きにした
 人生初めてのお姫様だっこだけれど、至近距離のそれに赤面なんてしてる場合ではない。


 ジロリと睨みつけた時成さんは、私を見ると「話は三日後に」とだけ言って戸をスパンと閉めた


 私の頭にピキリと青筋が浮かぶ。
 どこまで自分本位なんだあの男は…。私の言うこと1ミリも聞く気がないのか…!
 ぐぬぬと歯ぎしりをして、私は負け惜しみのように叫ぶ


「全然似合ってないですよ!その黒革の手袋!!」


 戸を閉められる直前、時成さんの左手にそれが見えた
 今まではしていなかったからつけたのは最近だ。
 何故?イメチェン?それとも中二病ですか?
 なんにしてもダサい!と興奮ぎみに叫ぶ私に、ゲンナイさんが「まぁまぁ」と宥めながらそのまま私を運んでくれるけど
 今はその優しさにさえ、少し腹が立つ。それもすべて時成さんのせいだ。

 
 あんなやつにどうして
 ドキドキなんてしてたんだ。私の心臓…!