乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます

 目を開ければ、ボロボロに泣きじゃくっている由羅ちゃんが見えた
 始めて心の底から、目が覚めて良かったと思った…。


「ゲンナイさんっ!良かった!目が覚めたんですね!」

「あぁ、おかげで随分と、スッキリしたよ」


 体を起こせば、自分の体がやけに軽い事に驚いた。

 なんとなく、確信した。それは、俺の中にあった『あの塊』が消えたせいなのだと…。そしてそれは、目の前にいる由羅ちゃんのおかげなのだと…

 塊も、光も…。夢だったのか、現実だったのか、確かめる前に、どうにかしなければいけないものが見えるな…

 視界に入ってきた、イクマと犬神が対峙する光景に、俺は静かに、腰の剣に手を添える。


「由羅ちゃん、イクマ…。悪かったな。俺が、剣を使う理由、“家業じゃない”と言ったのは嘘だ。」

「え」
「ゲンナイさん!?」


 一人でよく頑張ったなイクマ。経験不足の新人に、コイツの相手は骨が折れただろう…。

 だいぶ傷だらけになっている、そのイクマの横を通り過ぎ、俺は犬神の目の前へと立った

 威嚇するようにグルグルと唸り声をあげる
 我が宿敵に、小さく笑みをこぼす。

 不思議だな。犬神よ。今までは何故か、どうしても出来なかったそれをーー。
 狂うほど憎く、殺したくて仕方なかった
 お前を滅するという悲願を、ようやっと叶える時がきたのだと。俺は今、確信している。
 

 腰を低くし、鞘を構え、息を止めるーー。


 この技は“生涯守るべき者”ができた時にしか、使ってはならない。
 一子相伝の抜刀術『火霧邏(カムラ)』


 唸り声をあげ、襲い掛かってくる犬神に、刀を抜くと同時に、一閃に剣を振るう。


 甲高く響くような風切り音と共に、チリチリと火花を散らしながら、真っ二つになった犬神が、断末魔と共に風に流され、塵へと消えていったーー…


(あぁ、本当に、終わったーー)


 宿敵、犬神が…、この世界から完全に消滅したことを俺の体が、確かに告げていた…。

 
 ツー、と最後に流れた一滴の涙を拭い。
 振り返ると、見事にポカンと呆ける顔がふたつ。

 小さく微笑み、剣を収めると、イクマの頭にポンと手を置いた


「げ、ゲンナイさん…。異形は、『時が来るまで“不殺”』だと、時成様が…」
「…あぁ。どんな処分も受け入れるよ。」


 悲願を達成できた今、俺の願いはたったひとつーー。

 腰がぬけたように座り込んでいる由羅ちゃんの前に、俺はゆっくりと片膝をついた。

 思考が追い付いていないのか、パチパチと瞬きを繰り返すその様子にさえ、どうしようもないほどの愛しさがこみ上げる


「由羅ちゃん。」

「は…はい…?」


 どうか、受け入れてくれ。

 俺の生涯最後のわがままだーー。





ーーー





 なんだろうか、この状況は…
 

「君は俺を救ってくれた。本当にありがとう。」
「い、いいえ!本当大したことは…」


 気が付けば、現実に戻ってきていた私は、ゲンナイさんの浄化を再開した。
 だけど、そのすぐ、ゲンナイさんの気配が遠くに沈んでいくのを感じたから、呼びかけて…こっちに戻ってきてほしくて…とにかく必死だった。
 …そしたら、そうだ。パキパキと何かが割れる音がしたと思ったら、ゲンナイさんが目を開けて…

 (えーと、それで何故、こんな状況になっているんだろう…。)

 ゲンナイさんが意識を取り戻したのはいいのだけれど…
 そのゲンナイさんが、あまりにもあっさり犬神を消滅させたかと思えば、今度は何故か私の前に片膝をついている…。


「君のおかげで、もう俺は眠ることに恐怖を感じないだろう。」


 もしかしたら記憶を失う病気も、治っているかもしれない。と話すゲンナイさんに驚く。
 物凄く喜ばしい事だけど…私のおかげとは、どういうことだろうか、私、ただ泣きじゃくってただけのような…


「今ここにある俺の命は、君にもらったも同然のものだ。だから俺は、この命にかけて。生涯君を守り、忠誠を尽くすことをーーここに誓う。」

「へ・・・?」

「由羅ちゃん、どうか受け入れてくれ。」


 自分の胸に手をあて、少しだけ頭を下げて乞うてくるゲンナイさんに、理解が追い付かないまま私は無意識に頷いていた…。


「え、えっと。はい…」

「ありがとう。」


 ふわり、と本当に嬉しそうにほほ笑んだゲンナイさんは、優しく私の頬に手を添えると
 ーちゅっとリップ音をたてキスを落とした


「…っ!?」


 ボフッと効果音が聞こえてきそうなほど、一瞬で真っ赤になった私を
 目を細めて見てくるゲンナイさんのその顔が、まるで愛しい人でも見るかのようで…

 (頬にキスからの、この顔は、卑怯でしょう…!)

 早鐘になった心臓のせいなのか、自分の力と不相応な瘴気を浄化したせいなのか、もはやわからないけど…

 プシューとパンクした頭は、色々な意味で限界突破したらしい。
 私はその場にドサリと倒れ、気を失った