ミツドナの町は早朝だというのに活気あふれ賑わっていた。城下町だからかマナカノの町より華やかさがあるように感じる。行きかう人達の明るく幸せそうな顔を眺めながら歩いていると、前からイクマ君の悲しげな声が聞こえてきた。
「え~!もう帰るんすか?矢場行きましょうよ~!」
聞きなれない言葉に「矢場?」と首を傾げると、トビさんがため息交じりに答えてくれた
「遊戯場のことだぜぃ。縁日とかである射的の豪華版だな」
なるほど。と納得していれば「子供の遊びだ。」とまったく行く気がない様子のトビさんにイクマ君が食い下がっていた
「とか言って~?トビさん負けるのが怖いんじゃないっすかぁ~?接近戦専門だから飛び道具苦手っすもんねぇ?」
「アッハッハ!違うよイクマ!トビはね、プリンセス由羅の前で負けてカッコ悪いとこを見せたくなーー」
「上等だ!ボロクソにしてやるぜぃ!!」
キトワさんの言葉を遮ったトビさんは「ついてきな!」とそのままズンズン歩き出した。その様子にイクマ君はガッツポーズをして、キトワさんはやれやれと肩をすくめる
あ、結局行くのね。と苦笑いしながら私も三人のあとについていくのだった。
(トビさん意外と煽られ耐性低いんだなぁ…)
ーーー
「わぁ~!結構色んな景品があるんですね」
矢場という名の遊戯場に入ってすぐ、壁一面に並ぶ様々な景品たちに目移りする。 子供向けのおもちゃのようなものから大人向けの装身具やちょっとした日用品まであり、トビさんは子供の遊びだと言っていたけど、このラインナップを見ると客の年齢層も様々なのだろうことが伺える。
的を撃つのは弓矢かコルク銃のどちらかを選べるらしく、イクマ君とトビさんは弓矢。キトワさんは銃を選んでいた。
「で?どうやって勝ち負け決めるんでぃ」
「あ、考えてなかったっす!」
「そこは君達決まっているだろう!『由羅嬢が欲しいと思う景品を先に射止めた者』に勝利の女神である由羅嬢はほほ笑むのだよ!」
おっと。思わぬ形で巻き込まれてしまった。キトワさんのせいで私に集中する視線に苦笑いをこぼす。
「由羅なにが欲しい?」
「なんでもいいっすよ~」
「じゃ、じゃあアレで…」
遠慮しない方がいいのだろうな、と。一番気になっていた景品を指差した。
金色と黒の塗装がされた表紙に、見たことのない文字が刻まれたひとつの本。なんの本かも、何が書かれているのかもわからないけど何故か気になる…。
「あの本だな!」
「負けませんよ~!」
狙いを定めた二人がパシュッと勢いよく放ったその矢は
綺麗な放物線を描き、目当ての景品のーー。遥か上へと、ポスっと情けない音をたて突き刺さった・・・。
「「「……」」」
「ダメダメだね!!まったくもってダメンズだね!」
肩を落とすイクマ君と悔しそうに歯ぎしりするトビさんの間に立ち、キトワさんは優雅に銃を構えると躊躇なくパァンと撃ち放つ
一直線にまっすぐ伸びたそれは『コンッ』と見事に本へと当たり、ポトリとコルク弾が床に落ちた。
店主のおじさんが「おめでとうございます!一発大当たり!」とカランカランとハンドベルを鳴らしながら渡してきた景品を受け取ると、キトワさんは私へと体を向ける
「どうぞ。プリンセス由羅、お目当ての品だよ」
スッとまるで王子様のように片膝をつき、キラキラとしたオーラを纏いながらほほ笑むキトワさんに、私は少し照れながらも「ありがとうございます」と笑顔で受け取った
「気をつけてくれ由羅嬢!僕の華麗なる美技に惚れてしまうのは仕方ないことだが僕を手に入れるのは一筋縄ではいかないからね!」
紳士的な仕草は早々にいつもの調子に戻り高らかに笑いだしたキトワさんに小さくため息を吐く。大丈夫ですキトワさん。惚れないので
「…ふふ、でも本当かっこよかったですよ」
遠く離れた景品にたった一発で当ててしまうその技術も度胸も並はずれているのは確かだろうから。と受け取った本をぎゅっと抱きしめながら改めて御礼を言えば、キトワさんは少し驚いた顔をしたあとに「どういたしまして」と私の手を取ると、その甲にキスを落とした…。
「…へ…!?」
「またほしいものがあればいつでもこのキトワに言ってくれて構わないよ」とウインクとともに言われ私の頬がじわりと赤くなる。…手の甲にキスされるなんて漫画や映画の中だけだと思っていた…。まさか体験してしまうとは…
呆然としていれば私の肩をガシリと掴んだトビさんが「ええい離れろぃ!」と私をキトワさんから追いやる
「次は俺も銃でやる!由羅どれがいいんでぃ」
「あ、じゃ僕も銃でやろ~!まだ勝負はついてないっすよキトワさん!」
「やれやれ。君達ではこの世界に寵愛されているこの僕に敵うことなど永遠に不可能なのだといい加減気付きたまえ。だがいいとも!受けてたとう!売られたからには買わねばね!」
その後、ものすごく白熱した射的合戦は小一時間ほど行われ、お店の景品をほぼ獲ってしまった三人は涙を流す店主に半分ほど返納していた。
それでも籠いっぱいに詰め込まれた景品の数々を持って、私達はやっとマナカノの町への帰路についた。
ーーーーー
「ただいま戻りました~!」
トキノワに帰ってきた頃には日は完全に沈んでしまっていた。キトワさんとトビさんが今回の報告をしに時成さんの元へ行き、イクマ君は別の用事があるらしく「お疲れ様でした!」と元気よく叫ぶと去って行っていった。
イクマ君を見送ったあと、大量の景品をどさりと玄関へ置けば「おかえりなさい」と出迎えてくれたサダネさんが目を丸くしていた
「なんですかこれは…」
「由羅ちゃんおかえり。って…随分楽しんだようだな」
後から来たゲンナイさんも景品の山に苦笑いを零していたので「私が遊んだわけではないですからね!」と一応弁明しておく。
景品を獲るだけ取って遊び尽くして、全て私に押し付けたのはあの三人です!
「まぁなんとなく分かった。それは由羅ちゃんがもらっときな」
「部屋に運ぶの手伝いますよ」
まぁでもなんだかんだ日用品や衣服はありがたい。
初めて自分の物だといえるものが部屋に並び、少しうれしく思いながらも、数日ぶりのトキノワの自室にどこか安心している自分に驚いた…
あ、私…。ここをーー
トキノワを、帰ってくる場所だと思ってしまっている…。
「…。」
いいことなのか悪いことなのか…。
それすらわからないけど、少しずつ変化していく自分の心境に私は小さく笑みを浮かべた。
ここに居れることが『嬉しい』と私の心が告げている。
「え~!もう帰るんすか?矢場行きましょうよ~!」
聞きなれない言葉に「矢場?」と首を傾げると、トビさんがため息交じりに答えてくれた
「遊戯場のことだぜぃ。縁日とかである射的の豪華版だな」
なるほど。と納得していれば「子供の遊びだ。」とまったく行く気がない様子のトビさんにイクマ君が食い下がっていた
「とか言って~?トビさん負けるのが怖いんじゃないっすかぁ~?接近戦専門だから飛び道具苦手っすもんねぇ?」
「アッハッハ!違うよイクマ!トビはね、プリンセス由羅の前で負けてカッコ悪いとこを見せたくなーー」
「上等だ!ボロクソにしてやるぜぃ!!」
キトワさんの言葉を遮ったトビさんは「ついてきな!」とそのままズンズン歩き出した。その様子にイクマ君はガッツポーズをして、キトワさんはやれやれと肩をすくめる
あ、結局行くのね。と苦笑いしながら私も三人のあとについていくのだった。
(トビさん意外と煽られ耐性低いんだなぁ…)
ーーー
「わぁ~!結構色んな景品があるんですね」
矢場という名の遊戯場に入ってすぐ、壁一面に並ぶ様々な景品たちに目移りする。 子供向けのおもちゃのようなものから大人向けの装身具やちょっとした日用品まであり、トビさんは子供の遊びだと言っていたけど、このラインナップを見ると客の年齢層も様々なのだろうことが伺える。
的を撃つのは弓矢かコルク銃のどちらかを選べるらしく、イクマ君とトビさんは弓矢。キトワさんは銃を選んでいた。
「で?どうやって勝ち負け決めるんでぃ」
「あ、考えてなかったっす!」
「そこは君達決まっているだろう!『由羅嬢が欲しいと思う景品を先に射止めた者』に勝利の女神である由羅嬢はほほ笑むのだよ!」
おっと。思わぬ形で巻き込まれてしまった。キトワさんのせいで私に集中する視線に苦笑いをこぼす。
「由羅なにが欲しい?」
「なんでもいいっすよ~」
「じゃ、じゃあアレで…」
遠慮しない方がいいのだろうな、と。一番気になっていた景品を指差した。
金色と黒の塗装がされた表紙に、見たことのない文字が刻まれたひとつの本。なんの本かも、何が書かれているのかもわからないけど何故か気になる…。
「あの本だな!」
「負けませんよ~!」
狙いを定めた二人がパシュッと勢いよく放ったその矢は
綺麗な放物線を描き、目当ての景品のーー。遥か上へと、ポスっと情けない音をたて突き刺さった・・・。
「「「……」」」
「ダメダメだね!!まったくもってダメンズだね!」
肩を落とすイクマ君と悔しそうに歯ぎしりするトビさんの間に立ち、キトワさんは優雅に銃を構えると躊躇なくパァンと撃ち放つ
一直線にまっすぐ伸びたそれは『コンッ』と見事に本へと当たり、ポトリとコルク弾が床に落ちた。
店主のおじさんが「おめでとうございます!一発大当たり!」とカランカランとハンドベルを鳴らしながら渡してきた景品を受け取ると、キトワさんは私へと体を向ける
「どうぞ。プリンセス由羅、お目当ての品だよ」
スッとまるで王子様のように片膝をつき、キラキラとしたオーラを纏いながらほほ笑むキトワさんに、私は少し照れながらも「ありがとうございます」と笑顔で受け取った
「気をつけてくれ由羅嬢!僕の華麗なる美技に惚れてしまうのは仕方ないことだが僕を手に入れるのは一筋縄ではいかないからね!」
紳士的な仕草は早々にいつもの調子に戻り高らかに笑いだしたキトワさんに小さくため息を吐く。大丈夫ですキトワさん。惚れないので
「…ふふ、でも本当かっこよかったですよ」
遠く離れた景品にたった一発で当ててしまうその技術も度胸も並はずれているのは確かだろうから。と受け取った本をぎゅっと抱きしめながら改めて御礼を言えば、キトワさんは少し驚いた顔をしたあとに「どういたしまして」と私の手を取ると、その甲にキスを落とした…。
「…へ…!?」
「またほしいものがあればいつでもこのキトワに言ってくれて構わないよ」とウインクとともに言われ私の頬がじわりと赤くなる。…手の甲にキスされるなんて漫画や映画の中だけだと思っていた…。まさか体験してしまうとは…
呆然としていれば私の肩をガシリと掴んだトビさんが「ええい離れろぃ!」と私をキトワさんから追いやる
「次は俺も銃でやる!由羅どれがいいんでぃ」
「あ、じゃ僕も銃でやろ~!まだ勝負はついてないっすよキトワさん!」
「やれやれ。君達ではこの世界に寵愛されているこの僕に敵うことなど永遠に不可能なのだといい加減気付きたまえ。だがいいとも!受けてたとう!売られたからには買わねばね!」
その後、ものすごく白熱した射的合戦は小一時間ほど行われ、お店の景品をほぼ獲ってしまった三人は涙を流す店主に半分ほど返納していた。
それでも籠いっぱいに詰め込まれた景品の数々を持って、私達はやっとマナカノの町への帰路についた。
ーーーーー
「ただいま戻りました~!」
トキノワに帰ってきた頃には日は完全に沈んでしまっていた。キトワさんとトビさんが今回の報告をしに時成さんの元へ行き、イクマ君は別の用事があるらしく「お疲れ様でした!」と元気よく叫ぶと去って行っていった。
イクマ君を見送ったあと、大量の景品をどさりと玄関へ置けば「おかえりなさい」と出迎えてくれたサダネさんが目を丸くしていた
「なんですかこれは…」
「由羅ちゃんおかえり。って…随分楽しんだようだな」
後から来たゲンナイさんも景品の山に苦笑いを零していたので「私が遊んだわけではないですからね!」と一応弁明しておく。
景品を獲るだけ取って遊び尽くして、全て私に押し付けたのはあの三人です!
「まぁなんとなく分かった。それは由羅ちゃんがもらっときな」
「部屋に運ぶの手伝いますよ」
まぁでもなんだかんだ日用品や衣服はありがたい。
初めて自分の物だといえるものが部屋に並び、少しうれしく思いながらも、数日ぶりのトキノワの自室にどこか安心している自分に驚いた…
あ、私…。ここをーー
トキノワを、帰ってくる場所だと思ってしまっている…。
「…。」
いいことなのか悪いことなのか…。
それすらわからないけど、少しずつ変化していく自分の心境に私は小さく笑みを浮かべた。
ここに居れることが『嬉しい』と私の心が告げている。